ドラマ「半沢直樹」原作「銀翼のイカロス」池井戸潤:現役世代を元気にするネタバレなしの名言レビュー

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「半沢直樹2」は視聴率20%超えの好調なスタートですね。人気の秘訣はキャスト陣の過剰な演技とドラマティックな展開ということで期待に違わぬ出来栄えです。監修の甘さは金融機関に務める人間からすると苦笑いせざるを得ませんが、もはや歌舞伎ともいえるケレン味がすべてを突っ切っています(もちろんキャストは名歌舞伎役者だらけなのですが)。このくらい大げさでありえないからこそドラマたりうるといった様相で見応えは抜群です。「ロスジェネの逆襲」、「銀翼のイカロス」には大和田常務は直接的には本来出てこないのですが、ドラマのオリジナル展開は気になるところです。そういうわけでネタバレにはそこまで気を使うこともないのかもですが、一応は配慮しまして、ネタバレ無しで「半沢直樹2」後半の原作にあたる「銀翼のイカロス」をレビューします。

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「銀翼のイカロス」の面白さとは?

『半沢は、静かに怒りを噛み締めた。「たとえ相手が政治家だろうと、関係ない。この際、きっちり片を付けてやる。——やられたら、倍返しだ」』おなじみの名言ですが、やり返すとは言ってないんですよね。「やられたら、倍返しだ」はスッキリしているのですがややパンチに欠け、「やり返す」が入るとドラマ上はタメが入るので、大見得を切る感じが強まりますね。「ロスジェネの逆襲」は銀行に倍返しですが、「銀翼のイカロス」は政治家をも巻き込んで倍返しをしますのでお楽しみに。このスケール感が「銀翼のイカロス」の魅力です。

ドラマの理解に重要な「貸倒引当金」とは?

『「しかし、前回の金融庁検査時と今とでは帝国航空の財務内容に相当の隔たりがあります。〝分類〟される可能性は否定できません」 分類とは、いってみればある融資に対して、アブナイ貸し出しだというレッテルを貼ることである。アブナイ貸し出しは、貸し倒れる可能性があるので、 予め穴埋め資金を確保しておくルールになっているのだ。この穴埋め資金のことを 引当金 という。引当金は、損失覚悟のカネなので当然のことながら儲けからさっ引いて考えなければならない。つまり、帝国航空に対する巨額の融資がアブナイとされると、やはり巨額の引当金を積む必要があって、銀行の儲けを減らす要因となる。』

まさにコロナウイルス蔓延に伴う経済活動の停滞で、倒産しそうな会社がたくさん出そうな状況になっています。銀行は貸倒引当金をせっせと積んでいる最中です。ただし、思ったよりも倒産しなかったねということになれば、引当金を減らして戻り入れ益として利益計上も出来ます。東芝やシャープなどはこうしした事例の典型ですね。

さて、原作2巻目の「伊勢島ホテル」どころではない規模感が「銀翼のイカロス」です。というのも、潰れそうになっているのは、どう見てもJALがモデルの「帝国航空」が話の中心をなしているからです。JALは倒産後再建の上、再上場しました。私はMBA時代に、「財務会計」の授業のグループワークで、JALの不正会計やごまかしの手口がいかにひどいかをプレゼンターとして務め、優勝したのですが、まさか証券会社に入社後にJALの再上場のセールスをやる羽目になるとは思いませんでした(笑)その後「ダイヤモンド」で連載中の「銀翼のイカロス」を読みつつ、人生は皮肉なもんだなあとつくづく思ったものです(JALの再上場はアベノミクス相場のスタートでばっちり儲けてもらったのは良かったですけどね)

組織ってやつは……

「「正論がいつのまにか端に追いやられ、 詭弁 がそれにすり替わる。考えすぎた挙げ句、時としてバカでもやらないようなことをするのが組織というやつだ。」このセリフはまさに「合成の誤謬」のことを言っています。意思決定の主体者は経営者なわけですが、強力なリーダーシップがないと内向きな仕事に組織は傾いていきます。道筋を整えて、目指す方向を揃えるのが経営者の役割です。

「お前たちはただ、なあなあな関係を続けてきただけだろう。親密で大事な先というなら、伝えるべきことをきちんと伝えて、経営を支えるべきだった。相手が社長だからといって聞こえの良いことばかり並べてるからこうなるんだ。審査部はいつから茶坊主になった」。顧客ありきで仕事はすべきですが、顧客のご機嫌取りに終始していては、結局お互いのためになりません。時には直言できる関係が、本当の信頼関係なのです。

やるべき仕事・考え方は結局、シンプルだ。


『「物事の是非は、決断したときに決まるものではない」 中野渡はいった。「評価が定まるのは、常に後になってからだ。もしかしたら、間違っているかも知れない。だからこそ、いま自分が正しいと信じる選択をしなければならないと私は思う。決して後悔しないために。』後のことをいくつもシミュレートするのは重要ですが、選び取った決断をした後に悔やまない選択をすることが重要です。結局シンプルですが、半沢が作中で言うように「どうするもこうするも、自分が正しいと思うことをするしかない」のです。

「銀行は人と紙でできているといわれてきた。東新宿のこのビルの書類は、保存年限を過ぎると運び出され廃棄される運命にあるが、考えてみればサラリーマンとしての銀行員の運命もまた、それとさして変わりはしない。」すべてのサラリーマンは組織の歯車の一つ。替えが効くのです。だからといって、自分に意義ややりがいをどれだけ見いだせるかが、仕事を続けるモチベーションになります。長寿命化によって、文中の保存年限=定年よりも長く動く歯車にならないといけない時代です。そのためには、しっかりと自分の仕事に向き合う覚悟と考え方、パフォーマンスを維持する体調管理が重要なのではないでしょうか。

「世間に知られることなく、ひっそりと銀行を去ろうとも、この男が生きてきた道のりは尊く、そして光り輝いている。そのことを半沢は知っている。 かくしてまたひとり、勇者は消えゆき、後に伝説が残る。 それを引き継ぐのがオレの使命だ。 いま半沢は、はっきりとそう胸に誓ったのであった。」仕事をしてきた道のりを1人でもこう思ってもらえたらきっと本望なのではないでしょうか。「半沢直樹」は銀行組織の虚しさや復讐劇の痛快さだけではなく、ふとしたところに一縷の希望や人間の心意気などを織り込んでいるのが魅力の一つだと思います。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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