「半沢直樹」のドラマ2作目が本日スタートします。最終回視聴率42.2%を叩き出したドラマ1作目は、「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」のドラマ化でした。今回のドラマ2作目は「ロスジェネの逆襲」「銀翼のイカロス」が原作に当たります。ドラマがスタートしたばかりなので、ネタバレ無しで「ロスジェネの逆襲」を、現役世代を元気にする趣旨でレビューします。
大まかなあらすじとしては、東京中央銀行から子会社の東京セントラル証券に出向となった半沢直樹が銀行に倍返しするという話です(そのまんま!)。前作のように大和田常務に対する私怨ではなく、顧客の思いに応えつつ、証券子会社の意地を見せていきます。半沢たちバブル入行世代、部下の森山たちロスジェネ世代、IT経営者たちの思惑が入り乱れるやや複雑な話です。展開は二転三転では収まらないくらい目まぐるしく動くので、ついていくのが大変かもしれません。しかし、社会人としての仕事に対する向き合い方について、良い言葉がそこかしこに散りばめられています。ネジを締め直すにはピッタリです。
仕事にどう向き合うか、それが日々問われている。
『「本当に、部長にわかるんですか」 森山は泣き笑いの表情を浮かべた。「銀行にいいようにやられて、文句のひとつもいえない。このままじゃオレたちバカみたいじゃないですか」 「いや、この借りは必ず返す」 半沢はいった。「 やられたら、倍返しだ」』
半沢直樹シリーズおなじみの決め台詞ですが、モチベーションは人様々です。誰かを見返したいという思いは、前向きな方向で使うなら、顧客や組織に貢献する底力になってくれることでしょう。
『「いろんな奴がいる。それが世の中です」 半沢がいった。「そいつらから目を背けていては人生は切り拓けない。会社の将来もです。だから戦うしかない。その手伝いをさせていただきます。」』
話の通じるやつ、通じないやつ、話は通じるけど立場の違いで分かり合えないやつ……企業という組織のみらず、お客様も人様々です。向き合う勇気を持っておくことから、事態の打開が始まります。
『「いつもそんなもんばっかりに振り回されてる世代ですから、オレら」 「まあ、そうかもな。組織とか、世の中とか」 半沢はこたえた。「だけど、それと戦わなきゃならないときもある。長いものに巻かれてばかりじゃつまらんだろ。組織の論理、大いに結構じゃないか。プレッシャーのない仕事なんかない。仕事に限らず、なんでもそうだ。嵐もあれば日照りもある。それを乗り越える力があってこそ、仕事は成立する。世の中の矛盾や理不尽と戦え、森山。オレもそうしてきた」』
矛盾や理不尽という言葉に込められた意味は多様ですが、プレッシャーの中でもプラスの意味で抗う根気は必要です。精神論は古臭いですが、精神なくして肉体は動きません。「いい時には差はつかない。逆境の時にどんな努力をしたかで大きな差がついてくる」わけです。(参考記事:パワーフレーズ盛りだくさん!「営業マンの君に勇気を与える80の言葉」津田晃、かんき出版)
『半沢は笑い飛ばした。「オレが考えるべきことは東京セントラル証券の利益をどう上げるか、ということだけだ。戻るとか、戻らないとか、そんなつまらんことは人事部が判断すればいい。与えられた仕事に全力を尽くす。それがサラリーマンだろ。なにかヘンか。」』。『「銀行に戻ったほうがいいなんてのは、錯覚なんだよ」 森山は、黙って半沢を見ている。「サラリーマンは いや、サラリーマンだけじゃなくて全ての働く人は、自分を必要とされる場所にいて、そこで活躍するのが一番幸せなんだ。会社の大小なんて関係がない。知名度も。オレたちが追求すべきは看板じゃなく、中味だ」』「どんな場所であっても、また大銀行の看板を失っても輝く人材こそ本物だ。真に優秀な人材とはそういうものなんじゃないか。」
看板はどうあろうと、目の前の仕事に誇りを持ち、前向きに成果を上げることで、後ろ向きな考えから逃れることが出来ます。どんなときも生産的で建設的な方向へ、自分の考え方や意識を向けていく習慣をつけているかどうかは人生において重要です。
『「部長はそれでいいんですか。いまのポストを外されて、関係のない場所に飛ばされてしまうかも知れないのに」 「だから?」 半沢は問うた。「そんなことは関係ない。いまオレたちがやるべきことは、東京中央銀行がいくら資金を積み上げようと、人事権を振りかざそうと、買収を阻止することじゃないのか。人事が怖くてサラリーマンが務まるか」』『「いつもフェアなわけじゃないかも知れない。そこにフェアを求めるのは間違ってるかも知れない。だけど、たまには努力が報われる。だから、あきらめちゃいけないんだ。」
自分が考えるべきは自分の仕事、人事部が考えるべきは会社の人事です。自身のキャリアパスをどう描くかは重要ではありますが、必ずしも思い描いた通りにいかないのがサラリーマン人生です。課題の「分離」の考えた方で、自分のやるべき仕事に集中しましょう。(参考記事:「距離感」と「分離」が本質!職場・子育て・恋愛に応用可能なコスパ抜群本:「アドラーに学ぶ職場コミュニケーションの心理学」小倉広、日経BP社)
根拠なき世代論、愚痴を言っても始まらない!
『結局、世代論なんてのは根拠がないってことさ。上が悪いからと腹を立てたところで、惨めになるのは自分だけだ。』
この言葉は象徴的です。世代でひとくくりにする論調はメディア、飲み会問わず多いですが、所与の状況にどれだけ腹を立てたところで生産的な何かが生まれるわけではないのです。
『「どういうことですか」 「嘆くのは簡単だ」 半沢はいった。「世の中を 儚み、文句をいったり 腐してみたりする。でもそんなことは誰にだってできる。お前は知らないかも知れないが、いつの世にも、世の中に文句ばっかりいってる奴は大勢いるんだ。だけど、果たしてそれになんの意味がある。たとえばお前たちが虐げられた世代なら、どうすればそういう世代が二度と出てこないようになるのか、その答えを探すべきなんじゃないか」 半沢は続ける。「あと十年もすれば、お前たちは社会の真の担い手になる。そのとき、世の中の在り方に疑問を抱いてきたお前たちだからこそ、できる改革があると思う。そのときこそ、お前たちロスジェネ世代が、社会や組織に自分たちの真の存在意義を認めさせるときだと思うね。オレたちバブル世代は既存の仕組みに乗っかる形で社会に出た。好景気だったが 故に、世の中に対する疑問や不信感というものがまるでなかった。つまり、上の世代が作り上げた仕組みになんの抵抗も感じず、素直に取り込まれたわけだ。だがそれは間違っていた。そして間違っていたと気付いたときには、もうどうすることもできない状況に置かれ、追い詰められていた」』
世の中に文句を言う場所は、会社の飲み会以外にもSNSが今ではあります。しかし、どれだけ怨嗟の声を上げたとしても、それであなたの人生は良くなるのでしょうか?自分自身が感じた不満、会社や社会の良くないところをどうしたら変えられるのか、思考を巡らすことをしている人はどれだけいるでしょう?もしかすると、それを考える習慣をつけるだけで、あなたは一味違う人になれるのかもしれませんね。
「だが、お前たちは違う。お前たちには、社会に対する疑問や反感という、我々の世代にはないフィルターがあり根強い問題意識があるはずだ。世の中を変えていけるとすれば、お前たちの世代なんだよ。失われた十年に世の中に出た者だけが、あるいは、さらにその下の世代が、これからの十年で世の中を変える資格が得られるのかも知れない。ロスジェネの逆襲がこれからはじまるとオレは期待している。だが、世の中に受け入れられるためには批判だけじゃだめだ。誰もが納得する答えが。」
社会に対する疑問や反感、根強い問題意識……こうしたものに向き合うために自分の人生をどのようにデザインし、どのような考え方で向き合うかは、人生の質に大きな影響を与えます。もちろん、社会の仕組みをまるごと変えることは一サラリーマンには不可能です。しかし、家族や職場の同僚など、周りの人の考え方を少しずつでも変えていくことは出来るのではないでしょうか。
『森山は問うた。「それはどんな信念なんでしょうか」 「簡単なことさ。正しいことを正しいといえること。世の中の常識と組織の常識を一致させること。ただ、それだけのことだ。ひたむきで誠実に働いた者がきちんと評価される。そんな当たり前のことさえ、いまの組織はできていない。だからダメなんだ」 「原因はなんだとお考えですか」 森山はさらにきいた。 「自分のために仕事をしているからだ」 半沢の答えは明確だった。「仕事は客のためにするもんだ。ひいては世の中のためにする。その大原則を忘れたとき、人は自分のためだけに仕事をするようになる。自分のためにした仕事は内向きで、卑屈で、身勝手な都合で醜く歪んでいく。そういう連中が増えれば、当然組織も腐っていく。組織が腐れば、世の中も腐る。わかるか?」』
会社や自分に向けて仕事はするもんじゃない、お客様を向いて仕事をする、そんなアタリマエがやはり重要なのです。それができなくなった組織の収益は落ち込んでいきます。内向きな仕事の時間を減らし、外向きの仕事を増やすことが出来ているかどうかが、大組織の場合、特に健康度を図る指標になるのではないでしょうか。
「だが今回の試験は、まず解くべき問題を探してくるというところからはじまっていたようなものだ。君たちは、その肝心な勝負に負けた。その結果、君たちは、間違った問題を解き、間違った答えを出した。だが、東京セントラル証券のほうは、たしかに通常の手続きとは違ったかも知れないが、正しい問題を把握し、導くべき結論を導き出した。」
「論点思考(内田和成)」にもあるように、解くべき問いは何か?は本質的な命題です。論点の設定はマネジメントの役割ですが、一個人はそれに従いつつもひとつ上の階級の立場にたって、考える習慣をつけることで、将来的にマネジャーになった時より良い論点設定や判断ができるようになるでしょう。
「ロスジェネの逆襲」の作品舞台は2004年の設定、連載時期は約10年前に私が学生時代に週刊ダイヤモンドに連載していたと記憶しています。社会人になってリアルに金融機関で働くなかで、半沢直樹シリーズにリアリティは何ら感じませんが、それでも一つ一つのシーンは心を騒がせてくれる名ドラマです。現実では倍返しなんてそう出来るものではありませんが、倍返しを強調するドラマでは大変なカタルシスがあり、これはこれで良い点でしょう。しかし、困難な状況で必死に抗い仕事をする男の姿や言葉、気持ちが、「半沢直樹シリーズ」の本当の魅力だと思います。現役世代は読んでおいて損はない小説です。