ウェブビジネスの予見とおかしなジョーク集:『「超」整理日誌(3) 時間旅行の愉しみ』 野口悠紀雄、新潮文庫

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「超」整理日誌(3)は、1997年頃の野口悠紀雄教授のダイヤモンド連載のコラムをまとめたもので、山一證券の破綻や、総会屋問題など、当時の日本の出来事が随所に反映されています。

大蔵官僚時代の霞が関の回顧や、彗星にかける情熱、「さらなる」の誤用など、エッセイのトピックは多種多様。まず、本書で目を引いたのは、テレビと、有料情報・無料情報の住み分けについてです。テレビを観るのに必要なのは時間の機会費用であり、これが低い人ほどテレビを見る時間が長くなります。暇な人が要求する情報は一般に低いため、テレビ視聴者には質の低い低俗な番組を要求するバイアスが存在しているのです。

また、テレビの話から転じて、ウェブビジネスに関しても重要な示唆があります。ウェブの場合、制作費が広告収入でカバー出来れば、テレビの場合と同じように、限界費用ゼロでいくらでも供給できるというものです。1997年の段階で、クリス・アンダーソンの「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略 」で示された内容と同様の解釈がすでになされていた点は驚きました。今日のモバイルゲームや動画・音楽配信ストリーミングサービスの隆盛を予見していたかのような慧眼です。

「変な注意書き」というエッセイも面白い。本来意図している意味と別の意味になっている様子が色々紹介されていています。海賊王に俺はなるっ→再翻訳→俺は著作権侵害王になるっ!みたいなやつです。例えばこんな具合。

Please have a fit upstairs.
2階で試着してください。
→2階でひきつけを起こしてください。

Drop your trousers here for best results.
あなたのズボンをおあずけください、そうすれば最善の結果でお戻しします。
→ここでズボンを脱いで裸になれば、これからなさることでベストの結果が得られるでしょう。

It is forbidden to enter a woman even if a foreigner if dressed as a man.
(この寺は)女人禁制。外国人で男装しても同様。
→女体に入ることを禁ず。もし外国人が男のような格好をしても。

We take your baggages and send them in all directions.
荷物をお預かりしてどこへでも配達します。
→荷物をお預かりして、めちゃくちゃなところに配達します。

さらに、政治にまつわる種々のジョークも紹介しています。例えば、エール大学留学中に聞いたジョークはニクソン大統領についてのもの。ニクソン大統領のファーストネームと、リチャード3世をかけた”Richard the Third Rate”という揶揄が1コマ漫画であったそうです

在任期間が10年を超えたサッチャー首相に、記者が「あまりに長期の政権は民主主義に反するのでは?」と尋ねる。しかし、サッチャーはこれに答えて、「あなたはミッテランのことを言っているの?」と言ったといいます。切り返しの妙が発揮されていますね。

また日本にも、横並び主義を脱せよという議論があったはずなのに、都市銀行八行が一律に横並びでそれぞれ1000億円の公的資金投入を受けるという秀逸なジョークがあったそうです。1997年の空気を反映したエッセイは、当時を知る人も、知らない人が読んでも、様々な気づきがあるでしょう。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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