絶望の構造分解を超えて、前向きな一歩を踏み出すための1冊:橘玲「無理ゲー社会」

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学校は世の中の仕組みを教えてくれないけれども、本を読むことで、世の中の仕組みに挑むスタート地点に立つことは出来ます。橘玲の新刊「無理ゲー社会」は現代の私たちが置かれているゲームの仕組みの一端をわかりやすく教えてくれます。

本書の結論は、「きらびやかな世界のなかで、「社会的・経済的に成功し、評判と性愛を獲得する」という困難なゲーム(無理ゲー)をたった一人で攻略しなければならない。これが「自分らしく生きる」リベラルな社会のルールだ」というものです。しかも、「人類史上未曾有の超高齢社会のなか、増えつづける高齢者を支えるという〝罰ゲーム〟を課せられ、さらに100年を超えるかもしれない自らの人生をまっとうしなければならない。」のですから、たしかに無理ゲー感があります。

端的に言ってしまえば、現代はいわば才能ある者にとってはユートピア、それ以外にとってはディストピアです。誰もが「知能と努力」によって成功できるメリトクラシー社会では、知能格差が経済格差に直結します。遺伝ガチャで人生は決まるのか、「自由で公正なユートピア」は実現可能なのかといった論点において提示されるデータや議論の歴史は、政策・倫理論争の前に踏まえておくべき基本的なファクトです。

リベラル化の潮流で「自分らしく生きられる」世界が実現すると、必然的に、次の3つの変化が起きます。
① 世界が複雑になる  
② 中間共同体が解体する  
③ 自己責任が強調される
これら3つは相互に作用しあい、その影響は増幅されていきます。

リベラルの理想を信じるひとたちは、現代社会で起きているさまざまな社会問題をリベラルな政策で解決しようとします。しかしこれは話が逆で、実は「リベラル化」がすべての問題を引き起こしているという構図になっています。 わたしたちは「自由な人生」を求め、いつのまにか「自分らしく生きる」という呪いに囚われてしまったのです。

メリトクラシーは、現代社会を理解する重要なキーワードです。メリトクラシーはイギリスの社会学者マイケル・ヤングの造語で、1958年の著作〝Rise of the Meritocracy(メリトクラシーの興隆)〟が初出。ヤングはこの本で、メリットを(I+E=M)と明快に定義している。Iは知能(Intelligence)、Eは努力(Effort)で、メリット(M)は「知能に努力を加えたもの」という意味合いです。

メリトクラシーの背景には、「教育によって学力はいくらでも向上する」「努力すればどんな夢でもかなう」という信念があります。これこそが、「リベラルな社会」を成り立たせる最大の「神話」です。教育にはたしかに、階級社会を解体するとてつもない威力があります。しかし、その代わりに、「知能による格差」を拡大するのです。知能は多少遺伝の影響があるにしても、努力は個人次第だろう思われるかもしれません。ですが、知能だけでなく努力にも遺伝の影響があります。遺伝率は「やる気」が 57%、「集中力」が 44% で、努力できるかどうかのおよそ半分は遺伝です。
 
本書は、こうして現代社会の分断と知能格差のタブーに踏み込み、リベラルな社会の「残酷な構造」を解き明かしていますが、単なる分断・格差論を離れて、あなたはどう生きますか?という語りかけも聞こえていきます。たとえば、知識社会・評判社会において「自分らしく生きる」という特権を享受できる人たち、「自分らしく生きるべきだ」という社会からの強い圧力を受けながら、そうできない人たちに分かれているという前著でも述べられた指摘は、もし仮にそうだとして、どうすべきなのか?と読み替える必要があります。

「無理ゲー社会」はタイトルを真に受けて、絶望するための本ではありません。私達が抱える絶望の正体と無理ゲー社会という競争の前提条件を知ったうえで、前向きな一歩を踏み出すための本です。過去と他人は変えられないが、変えられるのは自分自身です。無理ゲー社会の絶望の構造を分解して言語化・可視化したら、どう生きるか、どう行動するかを決めましょう。エマーソンが言うように、「恐怖は常に無知から生まれる」のですし、ウィンストン・チャーチルが言うように「 恐怖は逃げれば倍になるが、立ち向かえば半分になる。」のですから。

無理ゲー社会(小学館新書) Kindle版

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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