スマートフォンを中心に便利で娯楽に溢れた生活にどっぷりと浸かっている私たち。裏返してみると、ゲームのみならず、iPhoneなどスマートフォンから、フラペチーノ、危険ドラッグ、お酒、たばこ、ギャンブル、SNS、連続ドラマなど動画配信サービス、ウエアラブル端末、目標追求、長時間労働……ストレスまみれの毎日に疲れ果てた我々の欲、依存心、意志の弱さにつけ込むテクノロジーが猛威を奮ってます。そうした世界に組み込まれているという認識を自覚するか否かは、人生に大きな影響を与えることでしょう。元アルコール依存症のアダム・オルター氏は、著書『僕らはそれに抵抗できない 「依存症ビジネス」のつくられかた』で「依存症ビジネス」が人を操る6つのテクニックを指摘しています。すなわち…
第1に、ちょっと手を伸ばせば届きそうな魅力的な目標があること。
第2に、抵抗しづらく、また予測できないランダムな頻度で、報われる感覚(正のフィードバック)があること。
第3に、段階的に進歩・向上していく感覚があること。
第4に、徐々に難易度を増していくタスクがあること
第5に、解消したいが解消されていない緊張感があること
第6に、強い社会的な結びつきがあること
とりわけ、典型的にいずれも当てはまるのは、スマホゲームということになるでしょう。コト消費に意味を見出すことは豊かな行いである一方、過剰であれば時間とお金の両面で負の影響を与えます。自制心の価値はかつてなく高まっており、ゲームは人生を豊かにも貧しくもするという点を踏まえて付き合っていく必要があるでしょう。
わかり易い例としてゲームへの没入を通して、「依存症ビジネス」が人を操る6つのテクニックを説明してみました。もちろん、この他にもSNSno過剰な仕様など「新時代の依存症」として、悪癖を常習的に行なってしまう行動嗜癖が”自然と”定着してしまう世界に、私たちはいるのです。依存症は性格の問題ではなく、当人の虚無感などを癒すようにデザインされた環境やプロダクトに関係している点が大きく、酒、タバコ、ギャンブルなどのわかりやすい依存性のビジネスよりも、ある意味で巧妙です。そうした中で、依存状態に気づき、なぜそうなるのかを知ることが、克服への大きな一歩となります。もちろん、依存を促すテクノロジーは諸刃の剣なので、うまく利用して人生を豊かにすることもできるわけですので、安易な悪玉論も禁物です。うまくつきあっていきましょう。
スマートフォンは現代人の様々な依存症への入り口ツールでもあります。「行動アーキテクチャ」という考え方を利用して、集中したいときにはあえて遠ざけるというのも一つのやり方です。前提として、人間は誘惑から完全に逃れることはできません。ならばまず物理的に、依存を誘発する対象を遠ざけてみるというのは一案です。それが難しければ、依存性を与えている要素を把握し、それを取り除くように努めることです。何にせよ、自分の環境を自分の意志で、賢くデザインし直すことが重要です。
神経の伝達物質と感情の相互作用が、依存症のメカニズムの一端をなしている点についても、留意しておくべきでしょう。薬物常習者とゲームの依存症患者の脳では、ドーパミンの負の無限連鎖が発生しており、快楽物質とも言われるドーパミンが抑えられると、人はドーパミンを求める行動を起こしてしまう。耐性ができると、脳はさらなる刺激を求めるようになるというわけです。それに加えて、実は依存対象を欲しがる仕草を見せる依存症患者の多くは、その対象を好きなわけではないのだそうです。「好きという気持ち(好感)」と「欲しいという思い(渇望)」を峻別することは、依存症脱出において重要な点と言えるでしょう。つまり、渇望は、好感よりも強い感情で、ある物資や行動と、心理的な苦しみからの解放感が一度結びついてしまうと、「欲しい」という気持ちを抑えることは非常に難しくなるのです。
では、依存症のメカニズムを踏まえたうえで、自己防衛するのはいいとして、プラス方向に何かできないでしょうか?たとえば、冒頭であげた「依存症ビジネス」が人を操る6つのテクニックを生かせば、勉強に対するモチベーションアップにも使えるかもしれませんね。何かにハマるメカニズムは極度の集中を生み、集中が大きな成果に繋がります。ネガティブな方面の依存症を遠ざけて、ポジティブな方面の依存症を増やすことは、人生のクオリティを高めることでしょう。