『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと – 会場に行く電車の中でも「挽回」できる!』海老原嗣生 、プレジデント社

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2010年(2008年→リーマンショック)頃の景気が振るわない頃の本だが、今なお示唆に富む内容が盛り込まれているので紹介します。「面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと 」海老原嗣生「テーマ→設問(選択肢)→回答・解説」のスタイルで、非常に読みやすい点が特長です。

就職活動における面接の大原則とは、面接は商取引である、すなわち交渉ごとの一種であると心得ることです。交渉はこちらの希望だけでは成り立たないのです。自分がどういう条件で働きたいか、その会社に入りたいという情熱だけでは、ダメ。したがって、こちら側が何が出来るか、何を出来るようになりたいかを伝えることが重要となります。

また、話す言葉は事例ベースで具体性をもたせて伝える必要があります。形容詞や大きな言葉は中身の無い空気のような言葉。加えて言えば、能力・知識・経験だけで就職は決まるわけではありません。自分の持つ個性=キャラを、仕事に結び付けて言うことも大切です。以下のような仕事の進め方に結びつく5つの軸がある点に注目することが重要です。
・緻密⇔スピード
・理⇔情
・行動⇔思考
・協調⇔競争
・伝統⇔斬新

上の5つの対立軸は、実を言うと表裏一体の短所と長所の組み合わせでもあります。緻密なら、緻密の一方で慎重、スピードは、結果を早く出すが、間違いが多いといった具合に。自身の持つ短所をひっくり返して、長所を見つけることも可能です。

企業研究は、事実の収集だけでなく、事実の裏にある背景を見ることも重要です。志望企業は、似通っていてもかまわないのです。それが類似性、すなわち軸だからです。

しかし、「なぜウチがいいの?」と聞かれたとき、同業他社でも言える事ではなく「その会社のみで通用する独自の志望理由」を答えることが望ましいでしょう。そのためにも、例えば業績躍進の事実を知るだけではなく、ではなぜその会社は成功したのか?と考える視点が必要となります。

以上のような、採用面接に臨むにあたっての指針や下準備が、上手い具合にまとまっているのが本書です。細かい小手先のテクニックは紹介していないので、本書を読んで考えることで、むしろ大船に乗った気持ちで堂々と面接に挑むことができるでしょう。本質的な内容自体は古びていないので、今なお読む価値があると言えます。。

巻末についている、就職活動をめぐるデータの虚実に迫る分析も非常に役に立ちました。もちろん2010年当時の話ではありますが、いわゆる”常識”の裏にある、統計的事実は通説とかなり異なっている点には注目すべきです。

・転職は最近増えたか?→2010年をボトムにその後は増え続けた。コロナ後の動向に注目

実は増えていない(当時)が、2010年に底入れ、その後は増え続け、2019年の転職者数は351万人と過去最多でした。2010年頃までの30年間で転職率は、男が3~4%、女性が3~5%、非正規だと10%前後で少々高い。勤続年数はバブルの頃からそんなに変わっていない。

転職者数の推移

・若者は3年で辞める?

ある程度これは正しい。大卒後3年の転職率は、1987年が28%、現在(当時)は35%(ただし、大卒が20年で40%以上増えていることは加味しなくてはならない)。20年以上にわたり、20代前半の転職率は年間10%ほど。つまり3年で30%というわけです。3年3割は体感的にも納得感があります。日本は終身雇用というより、20代で転職し、30代以降で定着する「途中から」終身雇用社会なのかもしれない。補足すると、転職者比率のトータルの数値は上記の通り男が3~4%、女性が3~5%ですが、25~34歳に限定すると平均よりも高く6~8%(2002~2019年)のレンジで推移しています。

・15歳から24歳までの非正規社員は46.5%(当時)

数字の裏にある条件を考えなくてはいけない。この非正規社員248万人のうち、115万人は在学中、つまり学生バイトなのです。また、80年代半ば、15~24歳の人口は400万人減少し、一方で大学生は100万人も増えた点も考慮する必要があります。母集団の偏りを考えるのは基本ですね。

・長期フリーターは最初からずっとフリーター?

30歳以上のフリーターのうち、男性は66.9%、女性は93.9%が正社員の経験がある。2010年当時の本なので、就職氷河期世代≒団塊ジュニア世代という点も加味する必要がありそう。

・正社員の採用は減ったのか?

正社員の採用は、1980年代後半では約29万人。一方2008年は約38万人。基本的には増えていた。しかし、採用は減っているかのような見方もありました。それはなぜでしょうか。

まず、大きな理由としては女性の4年制大学への進学率が高まったことが挙げられます。85年に13.7%だったのが、2008年は44.2%。さらに2008年の男女別就職率を比較すると、男性が63.4%、女性が76.8%となっている。つまり、男性から見ると採用が減っているような感覚と言えるでしょう。男性は、女性との競争にさらされてきたのです。

もう一つの理由は、求人倍率に秘められていました。当時の新卒有効求人倍率は1.62。(ちなみに中途は0.43)。しかし、この数字とは裏腹に、当時の不況期において10万人も就職の決まっていない人がおり、どうにも上の数字が実感とかけ離れていました。

この数字のからくりは、1000名以上の大手企業の新卒有効求人倍率を見るとわかります。1000名以上の大手企業に限った場合、当時はなんと0.55。さらに、大手企業の採用増減率の幅は激しいため、大手志向の学生の実感は、どこも採用してくれない、となるわけです。一方で、中堅・中小企業に目を向けると、新卒有効求人倍率は3.63。大手企業とはまったく違う数値ですね。

とはいうものの、やはり例年に比べれば厳しいことは確かでした。しかし、不況期に入ることがあるにしても、実は不況期に就職活動をするのはチャンスなのです。なぜなら、不況でも採用活動を行う会社は実力のある会社だからです。したがって、苦労の果てに内定を取れば、好況期に比べて良い選択の確率は高いというポジティブな見方もできます。足元はコロナ関連影響もあり、求人状況含め、リモート面接など就職活動は変容していくでしょう。デジタル技術の発達により、自動化・省力化の潮流も加速しています。しかし、団塊世代の退職と若年層人口の減少により、人手不足は構造的なものとなっています。売り手市場に甘えず、自らの活動・活躍の場として企業を能動的に選んでいきましょう。

『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと – 会場に行く電車の中でも「挽回」できる!』は目先のテクニックではなく、根源的な考え方を教えてくれる本なので、考え方のエッセンスは今なお古びていません。本書を役立てて、就職活動をより充実したものにしていただけたら幸いです。学生の方はもちろん、お父さん、お母さん世代の方にも読んで欲しい内容でもあります。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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