メディアや政治家に騙されないためのデータ分析リテラシー :「世論の曲解 なぜ自民党は大敗したのか」 菅原琢(光文社新書)

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2008年頃までの約10年の選挙について、徹底的にデータの点から論証している良書です。マスメディアを通じて流れる浅薄な認識を、数字の力が打ち砕いていく様子が痛快。我々の常識やイメージ、すなわち様々な世論の曲解にデータ分析の観点から論駁しており、新書ながらも歯ごたえのある1冊です。

「なぜ自民党は大敗したのか」を知るという目的のみならず、データ分析のモデルケースとして、調査と論証のプロセスを追体験するにはうってつけの本と言えるでしょう。図表が大量に使用されていて、印象ではなく定量的なデータから様々な通説を次々と論破する様は、数字の分析の本にしては読んでいて面白く、文系の方でも安心感があります。

政治家の世論認識やマスメディアの統計調査のバイアスなど、「そういう考えになってしまう」仕組みが浮き彫りにされている点も、非常に重要です。陳情などで政治家が直接聞ける国民の声は、「政治に関心がある人の」声だけになってしまいがちです。また、データを集める統計調査にしても、質問をするタイミングや、聞き方、対象などで大きく変わる仕掛けがあります。単純な選挙の分析だけではなく、こうした今後の政治やメディアのあり方、考え方につながる指摘が多々あります。

詳しい論証は本書でお読みいただきたいですが、箇条書きスタイルで本書の要旨をまとめてみました。当事者である政治家たちも要因分析ができて動いているわけではないところが面白いですね。

2005年の衆院選で小泉政権大勝→構造改革路線が支持された
2007年の参院選で安倍政権が敗北
→造反組の復党による改革後退イメージ、保守政策による左派の離反。
→これを自民党は「市場原理主義」への反発と誤認
→地方で勝つには小泉改革を否定
→福田内閣や麻生内閣では昔の自民党に戻る方針を強める
→構造改革に消極的になり2009年の衆院選で野党転落。

「麻生人気」→実態がない
「若者の右傾化」→幻想
「世論調査」の「麻生人気」→統計調査に問題。
ネット「世論」→定量的には極めて規模が小さい。

「勝ち馬投票」効果→政権交代で自民党から民主党へ移る。
政治家が世論を「肌で実感」しようとすると…
→政治に関心の薄い大多数の世論を誤解することになる。

民主党が2007年の参院選で農業所得補償などのバラマキ政策
→誤り。
民主党の一人区での得票は2004年と比べると増えていない
→圧勝の最大の原因は選挙協力
→しかし民主党自身これに気づかず小沢一郎氏の選挙戦術「小沢神話」へ

今年の総選挙で自民党も民主党も小泉改革を否定
→「小泉改革で地方が疲弊したため、農村票が自民党から離反した」は本当は誤り
→日本の農業人口→300万人と人口の3%以下、しかも兼業、サラリーマンも多い。
→地方の選挙区でも都市部都市住民の支持を得ないと勝てない

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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