「微差は大差なり」という言葉があります。長期的にはどのように生きるか、短期的には物事をどのように考えるか、意識する/しないとでは、人生のクオリティに大きな差が付きます。「20歳のときに知っておきたかったこと スタンフォード大学集中講義」(ティナ・シーリグ、阪急コミュニケーションズ)は、人間はどのように生きるべきかという古代ギリシア・ローマ風の人生哲学に、ある意味通じる良書です。生き方や心構えを説くといったかたちで、サブタイトルにある通りの大学の授業っぽさは特に見られません。目次はユニークなので紹介しておきましょう。
目次:
第1章 スタンフォードの学生売ります
自分の殻を破ろう
第2章 常識破りのサーカス
みんなの悩みをチャンスに変えろ
第3章 ビキニを着るか、さもなくば死か
ルールは破られるためにある
第4章 財布を取り出してください
機が熟すことなどない
第5章 シリコンバレーの強さの秘密
早く、何度も失敗せよ
第6章 絶対いやだ! 工学なんて女がするもんだ
無用なキャリア・アドバイス
第7章 レモネードがヘリコプターに化ける
幸運は自分で呼び込むもの
第8章 矢の周りに的を描く
自己流から脱け出そう
第9章 これ、試験に出ますか?
及第点ではなく最高を目指せ
第10章 実験的な作品
新しい目で世界を見つめてみよう
全編を通じて、健全な発想だけども、それでいてあまり意識されないことに言及している箇所がよくみられます。たとえば、「第5章 シリコンバレーの強さの秘密」では「リスク」には実は5種類あるといいます。すなわち、身体的リスク、社会的リスク、感情のリスク、金銭的リスク、知的リスクである。5つのリスクについて、自分がどのリスクを志向するのか、しっかりプロファイリングすることが重要だと筆者は述べています。
また、「プロジェクトからの撤退は、膨大な時間とエネルギーをつぎ込む前の初期の段階であれば、はるかにやりやすい。後になればなるほど、時間やエネルギーをつぎ込んでしまい、引くに引けなくなる」というのは、なるほどわかる話です。しかし、わかっていても実践できているかは耳の痛い話。俊敏に切り替えて、差Mざまなことにチャレンジして成長していきましょう。
「投資しすぎて引くに引けない症候群」について筆者は次のように励ましています。「何かをやめると実は驚くほど元気が出ます。決めるのは自分であり、その気になればいつだってやめられることに気付きます。自分で自分を檻に入れ、見張りをする必要はないし、うまくいかない場所にひきこもる必要もありません。」
まるでポーターのポジショニングのような考え方だが、確かに頷ける話です。自分の人生の選択肢の中で、選択と集中を推し進めることが、気持ちも行動も晴れやかに軽快にする道なのかもしれないですね。
授業の中で筆者は「光輝くチャンスを逃すな」と学生に訴えかけます。最低限で十分と甘んじるのではなく、最低基準を取り外してしまえというのです。見返りに何を得るのかがわかっていれば、最低基準を満たすのは簡単です。その象徴的な質問は、学生の「これ、試験に出ますか?」が挙げられます。ふと考えると、巷にあふれるキャッチコピーは「最短で」「効率的に」「ムダなく」「ムリなく」ばっかりではないでしょうか。だから、最低基準や最低限の努力といった限度を外した時にこそ、素晴らしい成果が生み出されるはずです。人生はどこからだって、一生懸命生きることができるのです。まずは、思い込みや限界を取っ払うことが、成長への第1歩です!