わかるようでわからない金融政策を学ぶ第一歩!:『マネーの魔術史 :支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか』野口悠紀雄、新潮選書

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物事を肯定、否定あるいは中立的な評価や判断を留保するためには、基礎知識が肝心です。基礎知識を学ぶには、まずは歴史と文脈を抑える必要があります。前代未聞の金融政策が行われている現代ではなおさら重要です。『マネーの魔術史 :支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか』を書いた野口悠紀雄教授は、野放図な金融政策に対して批判的な立場をとっていますが、一般週刊誌向けの連載をまとめて、よもやま話を交えて楽しくわかりやすく歴史的文脈を解説しています。

本書の紹介に移る前に、下の画像(出所:WSJ)をご覧ください。米国の代表的な株価指数S&P500が弱気相場入りから最短で戻した例です。

コロナウイルス感染症が猛威を振るい、3月から7月まで世界の経済は多くの国で麻痺状態になりました。それなのに、米国株式市場は3月に大底をつけ、あろうことかS&P500種とナスダック(ハイテク株の割合が高い)はコロナ以前の史上最高値を更新しているのです。この背景にあるのは、株式市場が企業の四半期業績の底打ちと経済回復の先取り期待をしているなど様々な要因があります。その中で最も大きい要因の一つが、米FRBによる異例の大規模な金融緩和策です(参考)。短期の政策金利を引き下げる”質的”な金融緩和だけでなく、日銀が先鞭をつけた国債の買い入れによる”量的”金融緩和も、米国、欧州が真似してポピュラーな金融政策になりました(国債どころか住宅ローン担保証券、社債などの買い入れすら行われていますし、日本に至ってはETFを使い年12兆円目処の日経平均やTOPIXお買い上げ!も行われています)。

詳述はあえて避けますが、このように米・日・欧を中心として”大規模”で、”異例”かつ、全く”前例のない”金融緩和策が取られています。これらが、良いことなのか、悪いことなのか、短期目線、長期目線で評価は分かれることでしょう。しかし、その前に基本を抑えていないと、何のためにこんなことをやっているのかがわからなくなります。しかも、足元では、米連邦準備制度理事会(FRB)は16日に、2023年まで利上げは想定していないと示唆した上で、インフレ率が平均2%以上にならなければゼロ金利の期間はさらに長くなるという「フォワードガイダンス(金融政策の先行きの手掛かり)」を示しました。これが一体に何を意味しているのか、のんべんだらりと生きている人には、まずわからないと思います(もちろん、プロですら正確に理解していないmことだってあります)。このような市場の期待に働きかける手法を各国中銀は採っており、金利やインフレ率、経済情勢などについてその微妙なニュアンスを汲み取る解釈は市場の動きを左右します。金融政策関連の声明や関連ニュース、各種市場の動きを理解するためには基礎知識は不可欠です。

『マネーの魔術史 :支配者はなぜ「金融緩和」に魅せられるのか』は、その点において、気軽にマネーの歴史を紐解くことができる概説書です。マネーの登場から説き起こし、貨幣改鋳・部分準備制・信用創造等をかいつまんで説明してから、巨額のマネーが必要になる古今東西の戦争における戦費調達方法を概観します。さらに、日本の金融緩和政策を厳しく批判するといった構成になっています。際限もなく膨張する社会保障費の負担を「国債の貨幣化」で賄うことになった場合の副作用を筆者は懸念していますが、それが正しいかどうかはまだ誰にもわかりません。しかし、複数のシナリオを投資家だけでなく、ビジネスパーソンは考えておく必要があります。なぜなら、それはあなたの資産形成に影響するからです。

誰もが当たり前に使っているお金のこと。わかっているようで、実は誰にもわからない未知の領域に私達はいるのです。理解しようと努めようとする試みはをしているかどうかで、世の中で起きていることを少しでもわかることを増やすことが出来ます。その一方で、わからないことをわからないと認識できることも「無知の知」であり、十分に有用です。金融政策は、その意味で最良の思考実験の素材なのかもしれません。なにせ、政策当局者ですら、本当はわかっていないかもしれないのですから。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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