日本人、そして私にとってのジャニーズって何だろう?:「ジャニーズと日本」矢野利裕、講談社現代新書

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日本芸能界の大立て者であるジャニー喜多川さんの死から1年が経ちましたね。「ジャニーズと日本」は日本の芸能・音楽史の中にジャニーズを位置づけ、コンパクトにまとめた概説書です。生々しい暴露話とかの類や闇の部分についての言及はありませんが、真正面からジャニーズアイドルの表現や音楽性、ショービジネスを時系列に沿って論じた好著です。戦後日本の背後に常にアメリカがいたように、敗戦後の日本に生きる私達はいつのまにかジャニーズを享受しています。では、日本人にとってジャニーズとは何か?私にとってのジャニーズとは?疑問が尽きないテーマです。

まず、ジャニー喜多川氏の来歴を振り返ってみましょう。John Hiromu Kitagawa、喜多川擴(ひろむ)氏は、1931年にアメリカのロサンゼルスで、日本人の両親の元に生まれました。父親の喜多川諦道(たいどう)は高野山真言宗の僧侶で、アメリカ別院の三代目主監を務めていたとか。2歳の時に日本に渡航し、大戦中は和歌山に疎開。和歌山大空襲の被害も受けました。終戦後は再びロサンゼルスに戻りハイスクールに通い、笠置シヅ子や美空ひばりがロス公演をおこなった際には通訳などで手伝いました。朝鮮戦争に際しては徴兵され、1952年に日本を訪れたのち、半島に渡り、除隊後はアメリカ大使館軍事顧問団に勤務して、代々木のワシントンハイツに居住することになります。

この時、「ジャニーズ少年野球団」を結成。ある日、雨で野球の練習ができなくなった時にチームのメンバーのとともに鑑賞したミュージカル映画『ウェストサイドストーリー』に一同感動し、エンターテインメント事業を興業することを決意しました。1962年4月、野球チームのメンバーである4名の少年により最初のグループであるジャニーズ(通称・初代ジャニーズ)を結成したのです。

1967年デビューのフォーリーブス、1971年デビューの「郷ひろみ」らに始まり、1980年代には「たのきんトリオ(田原俊彦、近藤真彦、野村義男)」、「シブがき隊」、「少年隊」、「男闘呼組」、「光GENJI」が活躍し、1990年代には「忍者」、「SMAP」、「TOKIO」、「V6」、「KinKi Kids」、「嵐」、2000年代以降は「タッキー&翼」、「NEWS」、「関ジャニ∞」、「KAT-TUN」、「Hey! Say! JUMP」。光GENJIを彷彿させるローラースケートを武器にした「Kis-My-Ft2」、「Sexy Zone」、「King & Prince」とジャニーズの系譜は連綿と受け継がれています。

ミュージカルに黒人音楽、ヒップホップ、さらにはディスコからクラブミュージックへの流れなど、アメリカの音楽文化がジャニーズの音楽に溶け込んでおり、日本のアメリカ化の一翼をジャニーズが担ったのは、今更説明するまでもないでしょう。ジャニーズのグループや楽曲のコンセプトに、アメリカ人としてのジャニー喜多川の視点が内包されており、アメリカから見た日本という視点が盛り込まれてます。特に80年代には顕著でした。誤解に基づいたジャパンというのは日本人にとって今も昔も面白いものです。

ショーアップされたアイドルから、90年代に入ると当初は振るわなかったSMAPが、歌謡番組の衰退からドラマやバラエティに活路を見出し、身近な存在になっていったのも面白い流れです。アイドルの素人性や未熟さを受容する日本の文化の多様さや幅広さも改めて考えるとなかなか興味深い部分です。

さて、ジャニーズも一大帝国を築き権勢を振るったカリスマの死で岐路に立っています。たとえば、経済・文化のデジタル化への対応がわかり易い例でしょう。下記の画像をご覧ください。電子版の「CanCam」における映画版「ニセコイ」のプロモーションですが、Sexy Zoneの中島健人くんが抹消され、モデルの中条あやみさんが虚空と戯れるシュールな状態になっています(笑)

インターネットにオフィシャルな形で写真や音源や動画を公開しないジャニーズの方針が仇となっている事例です。肖像権を厳しく守ってインターネットに露出をせず、デジタル・サブスクリプションの雑誌購読サービスどころか、今どきYouTubeなども有効活用できていないわけです。こうした、デジタル化された経済・文化への対応が、滝沢秀明・新体制下においてまず変化があるかどうか試金石だと私は思っています。

一見さんを必死に取り込まなくても、すでに2-3世代にジャニーズは浸透しており、一定のパイを獲得できているのはたしかでしょう。娯楽の多様化の時代、とはいえ、ジャニーズへのアテンションをどのように保持していくかは重要な課題と言えます。チケットなどが象徴的ですが、強固な世界観で囲い込んだ上で見せていくビジネスのあり方も曲がり角に来ているように見えます。

日本人、そして私にとってのジャニーズって何だろうか?と今一度考えてみる意義は大きいと感じます。「ジャニーズと日本」は、普段あまり立ち止まって考えることのない問題に目を向けてみるという意味で、コンパクトで新鮮な概説書と言えるでしょう。

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講談社
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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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