社会・メディアの病理をえぐり出す一冊!:「その言葉だと何も言っていないのと同じです!」日本実業出版社 、吉岡友治

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先日の記事(たったこれだけ!あなたが「言いたいこと」を伝えるための5つの手順:「その言葉だと何も言っていないのと同じです!」日本実業出版社 、吉岡友治)で紹介した「その言葉だと何も言っていないのと同じです!」(日本実業出版社 、吉岡友治)は、現代の社会・メディアの病理をえぐり出す1冊でもあります。

世の中には適切な主張、妥当な言説、明快で示唆に富む指摘を、しっかりと吟味のうえ作り込むよりも、安易な表現に流れたり、ひどい場合には意図的な印象操作さえ行われる例があるからです。テレビや新聞、ネットメディア、SNS、もちろん雑誌や本のなかにも、皆さん心当たりがお有りでしょう。

だから、この本の読み方としては単に自分の文章表現に生かすだけでなくて、反面教師から「ああはなるまい」と学ぶことも可能なのです。では、世の中にはどういう人々がいるか、順に見ていきましょう。

目次

直感を信じすぎる人々

・自分の「感じ」だけを重視する ・雰囲気・イメージだけで根拠がない
・感情を掻き立ててごまかす   ・ひとりよがりで他人を思いやらなない
・一貫性がなく、ポジショントークをする

自分と他人で、言葉はずれます。だから、どうしたら自分の言葉が意図通り伝わるか、吟味して言葉を使う必要があります。特に現代は、インターネットメディアの発達により、言葉が話者から離れて独り歩きしやすい時代です。きっぱりとわかりやすく、けれども妙な誤解や不愉快な思いを持たれないよう、先回りをして考える必要もあります。

いつも正しいことを言いたがる人々

・正しいけど無意味な表現を使う ・いつも批判する立場に立つ ・捨て台詞で印象操作をする
・陳腐な定型パターンを使い回す ・粗雑な比喩でイメージを作る・社会問題を捏造する

どれも築地の新聞社に当てはまりそうなことばかりですが、メディアが陥りやすい罠です。これを読んでいる皆さんはそうならないようにしておきましょう。どんなときでも成り立つ正しい発言は「(例:悩ましい問題である)」、私も使いがちなのですが、実は現実と無関係になってしまうという罠が潜んでいるので。無難な表現によくあることですが、これはすなわち有益な情報にはならないということでもありますので、しっかりと意見を表現しましょう。

いつも正しいことを言いたい欲求は自らを常に批判的な立場に置き、無意味な発言を投げかけることにもなります。つまり、安全地帯から石を投げるようなものです。ニュースメディアやコメンテーターは限られた時間で批判をしなければなりませんが、十分な下調べと十分な時間のうえで主張しているとは限らりません。したがって、「本当に今必要なものなんでしょうか?」「可能性はゼロではないはず」という典型的な言い回しを、次の話題に行くためについ使ってしまうのです。さらに、実際のところ科学的で冷静な実験や観察でわかることは、単純なYes・Noではなく、「だいたい、こういう関係にある」とか「多分こういう結果になるだろう」といった物言いです。そのギャップを利用して視聴者に迫るというわけです。

捨て台詞のたぐいも、意外に効果的です(悪い意味で)。話題の最後に、「二度と繰り返されてはならない」「疑惑は深まるばかりです」といった言葉でいとも簡単に視聴者・読者に疑いの念を持たせる事ができます。原発絡みやモリ・カケの類で散々耳にしたでしょう。こうして捨て台詞を活用することで印象操作をできるのです。少ない知的リソースで複雑な情報を処理して、さっと次のコーナーに移るには有効なので、つい仕切り直しに使ってしまうのかもしれません。わかりやすい原理や素朴な道徳観に訴えて、レッテルを貼って安易に片付けるなどの手法もおなじみと言えるでしょう。

そして何も考えなくなった人々

・論理矛盾に気づかない ・トレード・オフを想定しない
・集合の誤謬がわからない ・メカニズムで物事を考えな
・善意によってデータを曲解する

雰囲気やイメージ、通念だけで適当に発言し、自覚的にものを考えないので、態度や、行動、言葉の矛盾にも気づけないという例も、よくあります。トレードオフを考えない、あるいは見えていないことが特に多いのではないでしょうか。たとえば、反原発の活動家が、経済への影響を多角的視点から(火力発電に切り替えた場合のコストは?原発を止め続けるコストは?地域の経済は?…etc)分析したうえで、反原発の主張を掲げる例を私は知りません。

何かを良くしようとしても、他の部分に悪影響を及ばすこともあることは多いし、個人で成り立つことが、社会全体で成り立つとも限らない点にも気をつけるべき点でしょう。一つの問題を解くばかりに集中しすぎると見失ってしまうこともときにはあります。多角的な思考が重要です。

善意や倫理が先行しすぎて、調査の入り口でバイアスがかかり、データを曲解する事態すらあり得る点にも留意が必要です。新聞社の世論調査は、質問の作り方によって回答の誘導が恣意的に行われている可能性があります。そのうえ、定番の固定電話による調査では、勤労世帯や若年層の意見が十分に反映されにくいという欠点もあるでしょう。

「西洋近代の前提として、公私を分けるという観念が重要な役割を演じた。すなわち、宗教=信念は個人の内部に秘めるべきで、公的に強制してはいけないという寛容の原理が成立した。公的な枠組みと私的な枠組みは異なり、私的な善を社会にそのまま適用してはならない」という筆者の指摘も重要です。信念は重要だが、それをそのまま出すことが社会を良くするとも限らないという点も考慮して、妥当な論説を組み立てることも意識する必要があります。

以上、筆者の論を一部お借りしたうえで、それぞれ補足して述べてきました。今回の記事をさらっと眺めただけで、ついやりがちな表現の罠が見えるようになってきたと思います。「分断とSNSの時代に必要な3つの考え方―唸り・呟くネズミにならないために―の記事と合わせて、本書もご一読のうえ、皆様の表現や主張に役立ててけたら幸いです。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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