「 小さくても強い会社の 変化をチャンスにするマネジメント 」は、コロナ禍の今こそ読むべき本です。経済の急速な停止と回復の道筋が見通しがたいなか、世の中の様々な変化が加速しています。本書は、企業が変われない理由や、変化に対応するための論点やビジョンについて述べています。
『「ビジネス書」のトリセツ』で水野俊哉さんが数々のビジネス書著者を取り上げているように、この界隈にはいろんな人がいらっしゃいすが、小宮一慶さんは程よくバランス感覚を保ったところがあって、そこいらのトンデモ本とは違った良識があります。いわば、ビジネス書界のバートランド・ラッセルともいうべきです。コンサルタントとしての実務経験に、コトラーのマーケティング、ポーターの競争戦略、ドラッカーのマネジメントのエッセンスが、ちょうどいい按配で溶け込んでいるところが、この方の著書のいいところです。
企業はなぜ変われないのでしょうか?トップシェアを誇る企業ほど、自社のトップブランドのシェアを脅かす新製品の投入をためらいがちになります。さらに、変化によって失うもののほうが多いと感じる人達が多くなると、変わるということにインセンティブがなくなってしまいます。こうした状態では変革は生まれません。したがって、経営者はあえて波風を立てることも必要なのです。
社風は、和気あいあいではなく、切磋琢磨が本筋であり、組織の考え方も平均値志向ではなく、個別具体的志向であるべきです。筆者の経験によれば、倒産企業の社長は明るく、元気で、「大雑把で、見栄っ張り」という点で共通しているそうです。また、自分や自社だけは失敗しないというバイアスにかかると、会社はいつのまにか危機に陥っていることもありえます。。
そもそも目的と目標を取り違えないことも重要です。企業にとっての目的とは、存在意義。その一方で、目標は目的を果たすための通過点。売上高や利益は目標であって、目的ではありません。お客様第一を標榜する企業は多いですが、お客様第一は、やるかやらないかではなく、どこまでやるかの問題なのです。
世の中の変化に合わせて、大きな変化を恐れないことが重要です。世の中の変化とは、市場(主要顧客)、仕入先、代替品、業界や法制度、政治の変化など。さらに言えば、お客様の求めるQuality、Price、Serviceの組み合わせに対応することが変わるということです。まさに今様々な変化が加速しており、そこには商機も潜んでいます。
ここで、変わるということは、目的ではなく、手段です。なぜ、変わらなければならないのか、どのように変わらなければならないのかを説明しなくてはなりません。変わるという言葉がただのキャッチフレーズになっては意味が無いのです。分かる過去と現在を理解したうえで、現在の事業の業績の向上、機会の追求(現在の事業に関連して新しい顧客(層)や地域、新しい商材を探ること)、新規事業(自社の強みを活かして新しい事業に挑戦)の3つに分けてそれぞれ戦略を考えるべきというのが筆者の結論です。
企業の躍進にはビジョンが必要です。ビジョンとは、そもそもなぜこの企業や組織が存在するのかという存在意義や目的のことです。目標とは、目的追求の課程での通過点にすぎません。会社が普通の時は、社員は給料についてきますが、会社がしんどくなったときは経営者の信念や会社のビジョンについてくるのです。人はパンのみにて生くるにあらず、といったところでしょうか。
人事制度については、アウトバーンのような人事制度が望ましいと筆者は語ります。どういうことかというと、アウトバーンは最も速く走れる車線は最高速度が無制限で、車線が外になるに従って最高速度が下がっていくという仕組みになっています。これと同じように人事制度も、走りたい人は好きなだけ走れて、ゆっくりと自分のペースで走りたい人にはそれなりの車線が用意されているように設計するのが望ましいわけです。多様な考えを持った人がいて、それぞれの人が最大限の力を発揮できるようなインセンティブ設計が、会社の力を高める鍵です。5年後を支えるのは新規事業、10年後を支えるのは人と言われるように、企業の長期的な存続性は、何よりも社員、人にあります。