賢人二人から同時に学べる経営・人生・仕事・社会観:「ドラッカーと松下幸之助」渡邊雄介、PHPビジネス新書

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もしあなたが、一世紀に渡り世界を見渡した経営学者と売上高8兆円を誇る電機大手の創業者の考えを学ぶ機会があったら、素敵ですよね?実は新書1冊でそんな夢がかなってしまうのです。松下幸之助にゆかりあるレーベル「PHP」の「ドラッカーと松下幸之助」がその答えです。ドラッカーと松下幸之助にはは、経営観、人生観、仕事観、社会観といった様々な点において共通した物の見方をしていることが予想以上に多く、驚かされます。筆者の言う通り、「生まれも育ちも生業も違う人間が同じ経営というものに思索を巡らせ哲学を試みた結果で、たまたま近似した原則に収斂した」結果とは言え、興味深いですね。

社会について、ドラッカーは「社会と人間との関わりをどのように捉えるかという視座が重要である。」と述べています。これは、社会の観察者として、「社会生態学者」を自称したドラッカーらしい見方です。松下幸之助はそこから一歩進めて、「社会というものは、ひとりひとりの人間に対して『位置』と『役割』を与え、重要な社会権力が『正当性』を持ち得なければ機能しない。」と言います。経営者の視座だけではなく、国家をも考えた広い見方となっている。

また、ドラッカーは「最初の仕事はくじびきである」という面白い事も言っています。ドラッカー自身、最初の仕事は新聞記者であり、あのヒトラーにもインタビューしたことがあります。その後イギリスの投資銀行に勤めた後、アメリカで大学教授になりました。ドラッカーは、フィードバック分析で自らの強みを見つけ伸ばすことが重要だとも語っていて、彼の場合一貫して「物書き」であると述べています。

それに対して、松下幸之助は火鉢店、自転車屋の丁稚奉公から商才を発揮し、大阪電燈(現:関西電力)では電球ソケットの考案を行い、のちの松下電器創業に結びつきました。最初の仕事から、自らの能力を見出し伸ばすことで、後の仕事につながっていったのです。

企業家のあり方については、二人とも力点はもちろん異なるものの、おおむね共通した見方をしており、大まかに次の4点にまとめられます。つまり、
1.企業組織において権限を持ち、組織を機能させる役割としての存在
2.経営におけるリスクの負担者
3.企業を発展させるイノベーションの担い手
4.利益の追求者

3点目で、イノベーションという言葉が出ていますが、実務に携わる松下幸之助はことさら簡潔に「日に新た」という言葉ですべて要約しています。何において新しいのか?ということを細かく考えると、シュンペーターが参考になるでしょう。シュンペーターの言うイノベーションは一、言で言えば「資源の新結合」であり、イノベーションが起こりうる分野について5つのケースがあります。
1.新しい商品・品質
2.新しい生産方式
3.新しい市場
4.新しい供給源
5.新しい組織

その一方でドラッカーは、イノベーションが成立しやすい機会に着目して7つのケースに整理しています。
1.予期せぬ成功、予期せぬ失敗など予期せぬ出来事が生じた時
2.現実にあるものとあるべき姿の間にギャップがある時
3.ニーズが存在する時
4.産業構造に変化がある時
5.人口構造に変化がある時
6.ものの見方、感じ方、考え方に変化がある時
7.新しい知識が出現した時
こうした分野と機会に着目すると、イノベーションがどこでどういう時に起こるのかが分かりやすいであろう。

他にも様々な点で面白い比較が本書ではなされていますが、「日本人」についての両者の見方・考え方が思いの外、面白いです。松下幸之助は、日本人の3つの特質として、衆知を集める、主座を保つ、和を貴ぶを挙げて、シンプルに述べてます。それに対して、日本通としても知られるドラッカーの意見も非常に興味深いです。

「様々な点で両極性があることが日本の特徴であり、日本の伝統性とは知覚力」
「日本人は国土の一部であり、自然と一体」


松下幸之助の言葉は、同じ日本人だけにシンプルな言葉で表現してもそれ以上の意味合いが何となく通じてしまいます。その一方で、外から社会生態学者たるドラッカーが明快な言葉で表現すると、これもまた新鮮な気がしますね。

さらにドラッカーは、外国文化を旺盛に摂取しながら、決して同化されることはない日本人に着目して、どのようなものに対して、日本人は外国文化摂取を行っているかについて次のようにまとめています。
1.日本をいっそう日本的にするもの
2.各部の構造よりも全体のデザインとして適合するもの
3.日本人の人間関係にふさわしいもの
4.日本独特の精神生活豊かにするもの
5.日本人の精神的価値に合致したもの

このように、日本人は外国文化を取捨選択して摂取している一方で、伝統的な日本らしさというのもまた保持し続けている。この点について、ドラッカーは以下の4点を挙げています。
1.日本人は総意を重要視する
2.「道」という生き方のもと、人生は終身修め続けなければならない
3.個々、対立しながらも調和を見出し、全体的に収斂できる
4.両極性を保持し、異文化に接しても自らの精神性に即して、アイデンティティを損なわない限りにおいて取り入れる知覚力を持つ

1と3は「和を以て貴しとなす」ということでわかりやすいですが、2.「道」という生き方のもと、人生は終身修め続けなければならない、についてはあらためて指摘されると意外な気もします。やや理想的な面に目が向いているためある程度は割り引く必要もあるでしょうが、この考え方というのは、なかなか海外には見当たらないらしい。日本人のスポーツ観や仕事観は、特殊なのかもしれない。

4.両極性を保持し、異文化に接しても自らの精神性に即して、アイデンティティを損なわない限りにおいて取り入れる知覚力を持つ、という点は、こんな器用な真似をしてきた民族は歴史上あっただろうか?という疑問に思い当たります。これこそまさに、日本人のユニークさでしょう。地理的、歴史的な特異性があることをあらためて日本人は意識して、外国との彼我の差異を考えてみると、面白い点はいくらでも見いだせるかもしれないですね。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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