会社のあり方については飲み会でも意外ともりあがる話題で、居酒屋談義でああだこうだと喋っていたはずなのに、翌日になると忘れている……そんなことはありませんか?「カイシャ維新 変革期の資本主義の教科書」は、実務と理論のバランスから会社の未来を考えるアイデアをくれます。著者の冨山和彦さんは産業再生機構で名を馳せた経営コンサルタントで、現場で辣腕を振るってきた修羅場くぐりの実務家です。本書はいわゆるハウツー本ではなく、奥深い見識と実務感覚の両面から考える材料をふんだんに届けてくれます。
目次:
序章 日本はいつ20世紀の夢から覚めるのか
第1章 大発明「株式会社」は両刃の剣―世界金融危機の深層
第2章 知識集約時代と株式会社の変質―会社はモノからヒトへ
第3章 ポスト金融危機のガバナンス再構築―リアルな5つの大原則
第4章 資本主義の明日はどっちだ?―真のグローバル化とは
第5章 日本は、日本人は何をすべきか―「正解」は自分の手で
第6章 JAL破綻から学ぶべきこと―全経営者に7つの教訓
マクロとミクロ、法と経済、理論と実践、世界と日本といった具合に、非常に奥行きと厚みのある議論がなされているのも本書の特徴。筆者自身は法学部出身で、しかも経営学修士(MBA)であることから、経営だけではなく、法制度やガバナンスについても言及が多いです。また、かなりの読書好き、歴史好きであることも文章の端々から推察されます。
文体も歯切れがいいです。たとえば印象に残った言葉は、「人間は性格とインセンティブの奴隷に過ぎない。」。このように短く言い切るフレーズが随所にあって、しかも腑に落ちる表現です
とりわけ面白かったのは、「第2章 知識集約時代と株式会社の変質―会社はモノからヒトへ」と「第4章 資本主義の明日はどっちだ?―真のグローバル化とは」の2つの章。いわゆる教科書的な説明とは一味違った、歴史的経緯の説明が丁寧かつ簡潔で、良かったです。
第3章のガバナンス論も興味深いです。。いわゆる会社は従業員のものだ的なありふれた論調ではありません。だからといって、会社は株主のものだと手放しで認めるわけでもないです(法制度上はそうであると言うにとどめて)。両者の立場を止揚したものとなっている。筆者の結論のポイントは以下のとおりです。
・ガバナンスはあくまで当該企業における経営の本道、すなわち事業運営に関わる問題、資源配分にこそ働きかけるべきで、配当政策や自社株買いなどの資本政策の技術論に重きをおくべきではない。
・経営者の忠実義務の名宛人は株主ではなく、あくまでも企業価値全体、会社全体の利益であり、それを持続的に維持向上させることがガバナンスの目的価値である。
・ガバナンスの実質主体としての適格者は、当該企業の栄枯盛衰と長期的な利害を現実的に共有するプレイヤーである。
・ガバナンスが必要となる人間的リアリズムは、絶対権力の出現に対する予防と抑制にあり、ガバナンスは公開非公開、オーナー経営か否かに関係なく、あらゆる会社にとって重要課題である。
・ガバナンスとは、いざという時に、企業の持続的繁栄の障害となっている経営陣の首を挿げ替える事、あるいはそのきっかけを作るための実効的な枠組み、権力作用メカニズムのことである。
このように、本書は包括的かつ立体的に、筆者の知識、経験、思考が統合されています。すぐ役に立つようなことは盛り込まれていないかもしれないですが、長期的にじっくり物事を考えたいビジネスマンには是非一読を勧めたいと思います。