「夫のトリセツ」は、著者の黒川伊保子氏が女性目線で、男性の脳の仕組みや考え方の癖を説明してくれます。脳の性差を知れば互いの溝を埋めるための会話が可能になります。「夫のトリセツ」を読んでおくことで、取り返しがつかない事態になるのを防げる可能性が高くなるでしょう。今日は、まずエッセンスの部分をご紹介していこうと思います。世界の夫婦円満のために。
共感よりも、問題解決を急ぐ男性の脳
原始時代、男性は荒野に狩りに出て仲間と自分を瞬時に救いつつ、成果を出す必要に迫られていました。そのため、男性脳は「遠く」を見て、とっさに問題点を指摘しあい、「ゴール」へと急ぐようにチューニングされているのです。したがって、女性とは対照的に目の前の人の気持ちや体調の変化に鈍感です。また、プロセスを解析しないので、危機回避能力は低く、懲りずに同じ危険に身をさらす傾向にあります。一方で、女性は、「近く」を見つめ、大切な人の体調の変化を見逃さず、とっさに共感しあうようにチューニングされています。そのため、何か起こったときに、気持ちを語り合う傾向が強いのです。感情で記憶を引き出すことで、脳が経緯を再体験し、気づきを生み出せるからです。よって、ゴールとの距離を測りにくく、結論から簡潔に言うことが苦手なのです。守ってあげたい相手だからこそ、男性脳は問題解決を急ぐ。しかし、女性脳は、信頼している相手だからこそ共感してほしいと望むため、それを裏切りのように感じてしまいます。こうしたすれ違いはよくあることですが、互いの脳の動き方を知ることで、すれ違いを減らすことは出来ます。
夫との家での会話のコツとは?
話しかけたはいいが、要領を得ないリアクションが夫から返ってくることって、結構ありますよね。しかも話を聞いていない生返事……共感もしてくれない。こうした状況を解決するには、まずは女性が「いきなりの早口」で話しかけることをやめましょう。男性に話しかけるときは、2段制御をすることだと著者は説きます。まずは、男性の視界に入る場所まで行って名前を呼びます。次に、2~3秒間を待って本題に入ります。そのうえで、話し始めはゆっくりと。夫の音声認識のスイッチさえ入れば、ちゃんと聞く態勢になってくれます。
男性脳は、話し始めて30秒以内に目的(問題解決のテーマ)が見つからない話を聞いていると、3分も持たずに空間認知能力を働かせ始めます。実は男性の脳は、近くの人がおしゃべりをすると緊張するようになっており、空間認知力(戦略力、危険察知能力)を最大限に使うモードに入るのです。空間認知に集中するためには、言語解析の信号をふりむけるしかないために、音声認識エンジンを切ってしまうといってもいいかもしれません。それは、誠意や愛がないわけではなく、むしろ妻を危険から守るためなのです(原始時代にはこの仕組みは役に立ったのでしょうが……)。
話題や目的を一声示すだけで、男は耳を傾けてくれる
共感をしてほしい女性と問題解決をしたい男性のすれ違いもよくあるパターンです。共感の優先順位が高くない男性は、そんな女性の気持ちを理解しづらいのです。そのため、夫に共感してほしいときは、「今から私が話すことに共感だけしてくれればいい」と、明確にお願いすることだと筆者は言います。男性も共感したい気持ちがないわけではないのだから、ただ優先順位を変えてもらえばよいのです。思い切った提案に見えますが、男性の私から見ても「最初になんの話題について話すのか」「話の目的は何か」、ざっくり一言あるだけで全く受け止めになると感じます。何の文脈の会話なのかを示すことは、男女の会話を円滑にしてくれます。
男性と話すときは、結論(結論を出すための会話なら目的)から話すことが大切と著者は述べます。このことは、ビジネスシーンでも応用可能です。結論から話すことも重要ですが、常にそう出来るわけではありません。しかし、この場合であっても、「話がまとまっていないのですが、経緯からお話してもよろしいでしょうか」と声をかけるのがコツです。そうすることで、「経緯を聞くこと」が重要と思ってもらえるので、ストレスなく聞いてもらえるようになります。
家庭では「定番」を心地よく感じる男性脳
男性脳は、「定番」が気持ちいいと感じる。古代から狩りを担当してきた男性たちの脳は、遠くから飛んでくるものに瞬時に照準が合い、その距離感が即座に測れるように、脳と眼球を制御している。身の回りが定番で固められていることで、安心して遠くに集中できるのです。現代では、近く=家庭、遠く=仕事というわけです。だから、夫にしてもらいたいことを「定番」にするとよい。同時に、夫にも「定番」をあげようと筆者は言います。特に、「外に出ていく瞬間」と「帰ってきた瞬間」は大事で、男たちは、玄関で脳のモードを切り替えます。「いってらっしゃい」「おかえりなさい」は、もし仮に喧嘩の最中でも、いつも同じトーンで穏やかにすることだけは守る事が重要です。「家庭は安全な場所」だと男性に知らせるための大事なメッセージです。女性脳は相手の一工夫によって愛を測ろうとしますが、「定番」を差し出す夫と「非定番」を希望する妻の間では、永遠に愛は見えてきません。「こういうときは、こう言ってほしい」と、夫に言ってほしいことをルール化するのも効果的だと筆者は主張します。著者の家庭では、著者がテンパったら、「大丈夫? かわいそうに」と夫が口にするのが鉄則になっているという。男性脳は定番に忠実であり、約束を守ることが愛なのです。
「女性脳の生殖戦略」の罠
実は、夫にイライラする原因の一つは根源的には妻にあるという。それは妻の「女性脳の生殖戦略」です。順を追って説明しましょう。動物は、異性の見た目、声、匂いなどから、遺伝子のありようを見抜くため、免疫力が高く遺伝子の相性のいい相手に惚れて、その遺伝子を得ようとします。哺乳類のメスの場合、生殖リスクが高いので、相手を厳選して発情します。身も蓋もない言い方をすれば、これが恋の正体です。一定期間は相手に夢中なのだが、妊娠しないで時が経つと、相手への興味がなくなってきます。妊娠しない相手に執着していると、生殖機会を失う可能性が高くなるからです。出産をすると、今度は相手への執着が強くなります。その理由は、子どもを無事に育てるために、資源を提供すべき相手に変わるからです。子どもの生存可能性を高めるために、「搾取すべき相手からは徹底して搾取する」という戦略に変わるのです。つまり、子を持った妻は、夫に労力、意識(気持ち)、時間、お金のすべてをすみやかに提供してほしいという本能にかられます。母性の本質は、子どもに対しては優しいが、夫に対しては厳しいというものです。
これは一見残酷な事実ですが、より優秀な遺伝子を求め、新たな繁殖相手を求めるようになるというのは男女問わず、動物としては頷ける話ではあります。ただし、女性の場合、浮気心ではなく、目の前の生殖相手に腹が立つことで、次に行こうとするという仕組みになってるのが特徴です。だから、あなたが悪いわけではないんです。とはいえ、こうした脳が仕掛けてくる生殖戦略の罠に打ち勝つためにも、お互いを理解し、尊重しあえるコミュニケーションによって、原始時代の本能に打ち勝つ努力が現代人には必要です。「夫のトリセツ」、「妻のトリセツ」を読んでいるかどうかで、夫婦生活のクオリティは相当大きく変わるのではないでしょうか。(関連記事:女の機嫌はわからないと嘆く男性は必読!:「女の機嫌の直し方」黒川伊保子、集英社インターナショナル 新書)