政治・軍事戦略と企業経営戦略のアナロジー「もしも義経にケータイがあったなら」鈴木輝一郎、新潮新書

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「もしも義経にケータイがあったなら」のコンセプトは、源平合戦について、経営戦略やマーケティング、マネジメントの観点から探るといったものです。当時の政治情勢の移り変わりや合戦の軍略を通じて、様々な経営戦略・マーケティングのエッセンスを学ぶことができる1冊です。

ランチェスターの法則などは有名でしょうし、もとより政治・軍事戦略は企業経営の戦略に生かされることがあるので親和性が高いです。たとえば、平清盛の戦略は、
1,拮抗する相手とは戦わない
2,相手の内紛を待って分断する
3,分断した相手を各個撃破する。
と、本文で言及されている。
こうした清盛の老獪さは、企業経営にも生かせるかもしれないですね。

フィリップ・コトラーのマーケティング理論の中にSTPというのがありあります。STPとは、
S→Segmentation(市場の細分化)
T→Targeting(市場の客層)
P→Positioning(市場における地位の確立)

源範頼と源義経が、木曽義仲との対決にSTPを考えて適用するとどうなるのでしょうか。
セグメンテーション:
・義仲の支持勢力は、ほとんどが方人で君臣の結びつきが弱い。
・義仲の方人のほとんどが信濃・北陸などの豪雪地帯を拠点としている。
ターゲティング:
・範頼は義仲軍を近江と京都の境である瀬田に引き出して、対決する
・義経は南側から京都に侵入し、義仲に監禁されている後白河法皇の身柄を確保する
ポジショニング:
・洛中で略奪をしないことで、差別化を図る

たとえば、このような具合です。もちろん厳密な理論の適用ではないものの、面白いアナロジーを使って源平合戦を説明しています。頼朝を企業経営者に例え、義経を現場の営業社員とみなすと、いわゆる教科書的な視点とは違った見方ができてとても新鮮に見えます。ひたすらハイリスク・ハイリターンの万馬券にかけるモーレツ営業社員を、同僚や上司が見たなら、気が気でないでしょう。義経とその関係者たちの関係もまた、これに同じでです。

ところで、義経の人気を説明している箇所に、なかなか腑に落ちることが書いてありました。
つまり、義経は「われわれ庶民の一攫千金願望を満たしてくれた男」で、
さらに「一攫千金で得たものをあっさりとスる」。
しかも、「自分ひとりで他人に迷惑をかけずにスる」愚かさがあると同時に
「肉親(頼朝)にムシられる」不幸が重なったこともあるわけです。

史実の義経も、物語の義経もなぜこうまで人気があるのか、判官贔屓という言葉だけでは納得がいかなかったですが、作者のこの説明の仕方は実に腑に落ちる表現で、共感できる理由でした。

「もし以仁王にファックスがあったなら」
「もし木曽義仲にトラックがあったなら」
「もしも義経にケータイがあったなら」
我々の時代の文明の利器がないゆえに当時出来なかったことが、源平合戦のプレイヤーたちの敗因だったりもしました。しかしながら、彼らは、彼らに出来ることをやって戦いぬいたわけで、そうした人々が生きてきた積み重ねが歴史であり、彼らの判断と行動、さらに失敗それ自体にも学ぶことは多いのです。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。」byビスマルク
Nur ein Idiot glaubt,aus den eigenen Erfahrungen zu lernen.
Ich ziehe es vor,aus den Erfahrungen anderer zu lernen,um von vorneherein eigene Fehler zu vermeiden.

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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