サイバーエージェント藤田晋社長がビジネスパーソンに贈る実践的な「仕事学」の本。藤田晋社長はIT企業の経営者ではありますが、営業の経験などにも裏打ちされた骨太なアドバイスが光る一冊です。本書で述懐するとおり、「ビジネスは、複雑な要素が重なり合う、無理と矛盾だらけの世界」。それを何とか解きほぐした者だけが成功できます。「孤独」と「批判」に耐えて、複雑問題に対して常に自分で考えて答えを出すには、強靭な仕事の足腰が必要なのです。そのためには日々の仕事における考え方が最も重要になります。ポイントをいくつかご紹介していきましょう。
モチベーションと忍耐力のコツとは、「前向き」と「ほどほど」
微差は大差なりという言葉があります。現実をどう受け止めるかという1点をとっても、前向きに受け止めるか、ネガティブに受け止めるかで、日々の行動の能率と結果は左右されることでしょう。藤田晋社長はこう言います。「どんなに忙しくても、前向きな気持ちさえあれば頑張れます。自分だからこの量の仕事をさばけているんだ。会社にとって自分はかけがえのない存在だと気持ちを切り替えれば、モチベーションアップにつながりますし、良い人事評価を呼び込むと思います。」
「あなたは仕事で、こんなに頑張っているのに評価されていないと感じることはありますか。もしあるとしたら、私からのアドバイスはひとつです。まず上司ときちんとコンセンサスを取りながら仕事をしているかどうかを確認してみてください。」とも、藤田晋社長は言っています。私も同感です。対上司、対顧客の関係で「期待値のコントロール」は非常に重要な要素だと、実務上学びました。仕事の進め方において、上司や同僚の「何を、どのくらい、いつまでにしてほしいのか」と、自分の進捗のイメージを合わせながら、すり合わせていく習慣は非常に重要です。
仕事を粘り強く続ける。余程のブラック企業や業界でない限り、成長するにはまず、じっくり取り組むことです。そのための心構えとしては、モチベーションの波をあまり大きくしないことがコツです。愛嬌はあったほうがいいですけど、一喜一憂せずに真摯に仕事に取り組むことが、地味かもしれないですが本当に重要なことなのです。藤田晋社長はこのように述べています。「企業に入ってからの競争で求められる忍耐力とは、結果が出ない時に結果を出すまで頑張り通せるかどうかが問われます。分かりにくい仕組みの中に放り込まれた時に、改めて頑張り直す。そういう意味での忍耐力なのです。(略)楽観と悲観を繰り返しても疲れるだけです。モチベーションは高からず低からず。そのためには、ビジネスパーソンとしてこれから過ごす時間は長いんだ、まだこの先があるんだということを若いうちからしっかり意識しておくといいでしょう。視点が高くなって、広い視野で仕事を見ることができるようになり、気持ちも落ち着いてくるはずです。」
健全な競争意識は大切ですし、会社の活気にも繋がります。しかし、すべての人が勝者になれるわけではないのです。自分が自分をしっかりと評価し、そのうえで次につなげて、粛々と心を仕事を前向きな方向へ持っていくことが重要です。たとえが古いですが、「巨人の星」の星飛雄馬は、今振り返ればプロとしては最悪な人材でしょう。自暴自棄になって良いことなどありません。モチベーション管理には、「ほどほど」が寛容だと藤田晋社長は語ります。「本当に怖いのは、誰かと競って負けることや誰かに劣ることではなく、負けたことで自分の頑張りまでも否定してやる気をなくしてしまうことの方です。(略)モチベーションを長く持続するためには、「ほどほど」を保つのがコツです。劣等感を抱いた時には、それにのみ込まれてしまわないよう、視野を広げたり、狭めたり、時には比べる対象を変えてでも、自分の気持ちをコントロールすることが大切でしょう。そして、もっと重要なのは、たとえ様々な過程で人と比べることがあったとしても、最後は絶対評価に必ず立ち戻るということです。」
褒め言葉はタダ。人はパンのみにて生くるにあらず、です。褒め言葉は、いわば予算なしで使えるモチベーションアップや人間関係を円滑にするツール。使わない手はないでしょう。「褒められることは、いいお給料や高いポジション以上に、実はやる気の大きなシェアを占めています。なぜなら、褒められることは認められることであり、それ以上に人にやる気を起こさせるものはなかなかないからです。(略)メールを打つなり、実際に声をかけるなり、褒めるのは時間にして 30 秒もかかりません。そんな短い時間で“いい仕事” ができるのですから、安いものです。人は褒められると、相手をがっかりさせてはいけないと思って、期待以上に頑張ってくれます。褒め惜しみしない方が絶対にいいと思います。」
外堀を埋めるような手法は、ビジネスにも応用できます。会話術自体は重要ですが、~したくなる、~せざるをえない文脈や状況があってこそ、説得や励まし、指示は効果をより発揮できるのです。「実は、優れたマネジメントをする人や成果を上げるという人には、まず環境を整えていくという特徴があります。会話のテクニックはもちろん大切です。気にするのとしないのとでは、結果が違ってくるでしょう。しかし、人を説得できる人というのは、自分の会話力を磨くことより、説得力のある環境を整えることに注力していいます(略)部下に何かを学ばせたいのであれば、口で説教をする前に、課題を与えるなどして勉強せざるを得ない状況を作ってしまう、といったことも環境作りの一つです。」
成長したければ、場数を踏め!果敢なチャレンジと潔い撤退ルール
トライアル・アンド・エラー。仮説・検証のサイクルをとにかく早く回すには、スピードと量が重要です。働き方改革と言われて久しいですが、質の高い効率的な仕事の前には、量に裏打ちされた仕事の経験値(失敗も含む)があってこそです。自分の視野と世界と能力を広げるためにもチャレンジあるのみです。藤田晋社長は、こう叱咤激励します。「仕事に就いたら、とにかく早く結果を出すことが重要です。では、早く結果を出すには具体的に何をすればいいのか。ずばり、それは「場数を踏むこと」です。(略)ひたすら場数を踏む、こうしたやり方は効率が悪いように感じる人がいるでしょう。確かに、私も最初はそう思いました。しかし実際は、場数を踏むことでしか自分の中の知識や選択肢を広げられず、効率は上がらないのです。」
損切りは、株式相場でも、ビジネスにおいても重要です。特に決断はサンクコスト(ざっくりいうと、今まで使ってしまった回収不能な費用のこと)に左右されがちなのが、人間というものです。新しいビジネスを起こすことは尊いことではありますが、これはまずいと思ったら潔く手を引くことも必要です。そのときには、客観的で納得できる基準を持っておくことが必要であると「ビジネスの場では成功法則を見つけ、それに向かって邁進するだけでなく、何事につけ“〝 失敗の兆し”〟 を早くつかむこと、そして傷の浅いうちに手を引くことも同時に覚えねばなりません(略)例えば当社には新規事業の「撤退の法則」があります。具体的には事業を「J5」~「J1」の段階を経て拡大しています。J5から始まって最初の9カ月で月額の粗利益500万円を達成できればJ4に昇格、できなければ撤退です。さらにJ4に昇格した後もクリアすべき数字が決まっています。ここで達成できればJ3に昇格、できなければやはり撤退です。これらはネットビジネスでの経験上、立ち上げにあまり時間のかかるものは失敗すると分かったために設けたルールです。失敗パターンを知るだけでなく、さらにそのパターンを具体的に数値化すると、手を引くかどうかの判断も早くなります。結果、2段階での基準をクリアし、黒字化を実現した事業はほとんど成功しています。 ほかにも新規事業に限らず、私の経験から失敗する可能性が非常に高いと感じるのは「納期遅れ」や「締め切り遅れ」が起きた時です。」
「何をやるか」だけではなくて、「何をやらないか」も重要です。やる前から諦めてはいけませんが、人には向き不向きがあり、チャレンジした結果それが分かったときには、強みに集中するほうが効率的です。ドラッカーも「弱みをなくすことにエネルギーを注ぐのではなく、強みを生かすことにエネルギーを費やさなければならない」といった趣旨のことを言っています。また、サイバーエージェント社は「8人以上の会議はやらない」と決めているのだそうです。。会議に出席する人数が多すぎると、議論が活発に行われなかったり、意見が分散しすぎて結論が出なかったりするからです。余談ですが、ネーミングがユニークな社内制度も評判です。福利厚生の「2駅ルール」(勤務している職場の最寄り駅から2駅以内に住めば月額3万円が支給される制度)は、ネーミングが奏功した典型例。通勤で社員の時間や体力を消耗させないために、会社が妥当な額の補助を出すのは理に適っています。
以上で、「藤田晋の仕事学-自己成長を促す77の新セオリー」のポイントを振り返ってきました。起業家・IT社長の書いた本ではありますが、大上段に構えたことも浮ついたことも、アドバイスしていません。地に足のついた等身大のアドバイスが魅力的な1冊でした。入社前に読んでおきたかった本ではありますが、あらゆるビジネスパーソンに有用な内容が含まれています。まさに、この「読書で現役世代を元気にするブログ!」で紹介するのにふさわしい本でした。コロナ禍で変化が加速する時代、本書を手にとって仕事への意欲を「程よく」高め、成長につなげるにはぴったりな1冊です!