速報によると、藤井聡太棋聖が、木村一基王位を破り史上最年少での二冠となりました。18歳1カ月での2冠は羽生善治九段(49)の21歳11カ月(王座と棋王)となるほか、八段昇段は加藤一二三・九段(80)の18歳3カ月をそれぞれ上回る早さとなります。渡辺明三冠から棋聖を奪取し、最年長でタイトルを掴み取った「百折不撓」の男・木村一基王位からもタイトルを奪う。この1ヶ月の出来事は人によっては”順当”なのかもしれませんが、あまりに残酷な現実にも見えます。しかし、これこそが将棋界、勝負の世界なのです。
藤井聡太二冠に少しでも学ぶ方法は……まずは師匠の本を読むこと!
Twitterで「同飛車大学」がトレンド入りする今日このごろですが、一時は約30年ぶりにすべてのタイトルを分け合う状況も(令和の将棋界は「カオス」になると羽生九段が予言していましたね)あったのが、今はまさに四天王時代の到来と言えそうです。藤井聡太二冠(王位・棋聖)、渡辺明(名人・棋王・王将)、永瀬拓矢二冠(王座・叡王)、豊島将之竜王の4名で複数冠を奪い合う熾烈な抗争が極まることでしょう。さて、めでたい最年少記録誕生の日から、藤井聡太二冠から少しでも学べることはないのでしょうか。その答えは師匠である杉本昌隆八段の「弟子・藤井聡太の学び方」にあります。
師匠・杉本昌隆八段だってすごい人!
師匠も弟子の活躍に触発されて強くなっています。杉本昌隆八段は、50歳でのB級2組昇級は史上4位の年長記録を打ち立てました(第77期順位戦)。惜しくも藤井聡太との師弟同時昇級はなりませんでしたが、齢50歳の棋士が熾烈を極める順位戦で昇級するのは異例のことです(藤井は都成竜馬に勝利して最終成績を9勝1敗としたが、他の3名:近藤誠也・杉本昌隆・船江恒平も全て勝利して9勝1敗の成績で並んだため、藤井は順位の差で昇級を逃した)、期待の新星を育てる傍らで、よく観察し、自らも強くなり、一般向けの書籍も出している。師匠もすごいんです(他にも定跡化の難しい「相振り飛車」に加え、「入玉」の定跡書まで出しているくらいです)。
「学ぶ力」とは何か、ちゃんと説明できますか?
「学ぶ力」とは何か、改めてちゃんと説明しようとすると難しいものです。杉本八段は、「学ぶ力」を幅広く捉えて、このように言っています。「大好きなものや熱中できるものを見つける、思考力・集中力・忍耐力・想像力を養う、闘争心・冒険心・自立心・平常心を身につける、気持ちを切り替えたり発想を転換したりする――。」
「学ぶ力」はこうして、いくつかのサブスキルに分解できます。「大好きなものや熱中できるものを見つける」は、「ターゲットを定める力」、「やるべきことを定める力」と言い換えると応用がききそうです。「思考力・集中力・忍耐力・想像力」の4つの力は、具体的な行動やそれを成し遂げるための工夫や仕組みづくりにより鍛えられそうです。「闘争心・冒険心・自立心・平常心」はメンタルマネジメントとも捉えることができ、心身の健康とモチベーションなどをいかに保つ・高めるか人生において重要な課題です。「気持ちを切り替えたり、発想を転換したりする」は、行き詰まったときの仕切り直しの選択肢をどう持つかなどにつながりそうです。このように、「学ぶ力」は多様なサブスキルの総体です。分けて、一つずつ、改善していくことが凡人たる私たちにできることと言えるでしょう。
藤井聡太二冠の「学ぶ力」とは?
「普段の学び方は、自宅で棋譜を見たり、気になった局面を盤に並べたり、詰将棋を解いたり、将棋ソフトを相手にしたりと、一人で研究を続けています。テレビをほとんど見ずに、新聞は国際面を中心に読む。あくまでマイペースです。」何だ、将棋棋士なら普通じゃないか?と思ってしまう人もいるかも知れませんね。しかし、どうでしょうか。「プロとは当たり前のことをできる人」と故・野村克也氏は言っていましたが、プロとして必要な活動をあくまでマイペースにこなしているところが高校生プロの凄みです。
特に将棋を指すわけではない人にとって真似できるとしたらどの部分でしょうか?私は、「テレビをほとんど見ずに」の部分だと思います。これなら私にもできますが、その効用は侮れません。テレビを何気なく見る時間は、年間では相当な時間になります。意識的にテレビを見る時間を減らして、受動的な時間を能動的な時間に変える。新聞さえ読まない人が多いこのご時世に、何気なく付け足されている「新聞は国際面を中心に読む」、も只者ではない何かを感じさせますね。
プロ向けの性格とは?
プロ向けの性格として「負けず嫌いであること」、「負けを引きずらないこと」、「孤独に強いこと」の3つを杉本八段は挙げています。もちろん、藤井聡太二冠もこの3つを備えています。小さい頃にあれ程泣き、しかも切り替えが早い子は見たことがないと杉本八段は述懐しています。藤井聡太二冠のご母堂もまた立派で、叱りつけず、無言で連れて行くのだそうです。また、詰将棋に時間の許す限り取り組んでいる集中力も尋常ではありません。詰将棋解答選手権を15~19年まで前人未踏の5連覇(今年はコロナ禍で中止)というのは恐ろしい限りですが、字を書ける前から詰将棋ノートをすでに作成していたといいます。
おもちゃにも知育の効能が……?
藤井聡太二冠といえば、通っていた幼稚園のモンテッソーリ教育のほかに、「キュボロ(立体の迷路をつくってビー玉を転がすスイス製の木製立体パズル)」や迷路づくりに熱中したことは有名ですね。「迷路を書こうとしたり、立体パズルをつくろうとしたりする発想と意欲をどう養えるかが重要」であると杉本八段は考えていますが、幼児教育の観点から手を動かしたり、空間認識の力を鍛えることはたしかに重要性がありそうです。杉本八段の分析では、藤井聡太二冠の将棋は、角や桂馬といった斜めに大きく動くコマの使い方に特徴があり、三次元的な思考を得意としていると見ています。
将棋の3つの効能:論理的思考力、集中力、忍耐力
藤井聡太二冠は数学のほか地理も得意でしたが、全国の山の標高や積雪量を調べるのが好きだったと、師匠の杉本八段は述べています。将棋ができると勉強ができるのか、勉強ができるから将棋ができるのかは、鶏と卵の関係に似て因果関係を定めることはできません。しかし、相互に良い関係はありそうで、総合的に見ると、頭脳格闘技である将棋を指すメリットはいくつもありそうです。
将棋を指すようになると物事を論理的に考えるようになるので、算数・数学が得意になりますとも杉本八段は述べていますが、これはさすがにリップサービスでしょう。とはいえ、広瀬章人八段(早稲田・教育、理系)、谷合廣紀四段(東大大学院在籍中、統計解析の著書も)の例を見るとあながちリップサービスとも言い切れない……かもしれません。物事を理詰めで考える癖をつけるには、将棋は導入として効果がありそうです。個人的には、将棋は「他人事にしない、自分事にして考える」につながる点も重要だと思います。将棋は二人零和有限確定完全情報ゲームであり、運の要素がありません。つまり、全く言い訳が聞かないのです。一切の責任転嫁が許されない妥協なき頭脳格闘技と言えるでしょう。
とはいえ、将棋で集中力と忍耐力が確実につく点は間違いなさそうです。この点について、杉本八段は次のように述べます。「確かに集中力はつき、間違いなく我慢強くなると思います。自分が指したい手をなかなか指させてくれないのが将棋です。否が応でもなかなかうまくいかないものだなと我慢しなくてはなりません。」机に向かう時間が増えた、集中力がついたという声も多数耳にするそうです。鶏と卵の例はあるにせよ、子供のうちに将棋を好きになると、考えることが好きになることは確かなようで、物事を真剣に考える習慣は人生のあらゆる場面で役立つと言えるでしょう。
学ぶ側には信念、教える側には柔軟性が必要と、杉本八段は説きますが、信念は周りが育てるわけではなく、自分自身で持つものです。家族・両親、師匠・先生にできることは、子供がのびのびと好きなことをできる環境づくりなのです。
藤井聡太二冠誕生の報は喜ばしい限りですが、私たちが何を見出し、学ぶかもまた重要なことです。もちろん、破れた木村一基九段の「