現役世代に元気を贈る究極の1冊!:「介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました 」 今泉健司

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当ブログ「読書で現役世代を元気にするブログ!」にふさわしい1冊を紹介します!今泉健司四段の「介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました」は元気が出る1冊です。今泉四段といえば、NHK杯で藤井聡太七段を得意の中飛車でKOしたのは記憶に新しいですね。壮絶人間ドラマの自伝小説、将棋の読み物としても面白く、人生を学べる点から、将棋を知らない人にも自信を持ってオススメできる1冊と自負しています。

目次

将棋上達:受けが弱いと将棋は勝てない+詰将棋大事!

将棋ファンのために、まずは将棋に役立ちそうな論点を2点。最新巻は「受けが弱いと将棋は勝てない 今泉流受けの極意」でしたね。近著なので紹介しておきます(笑)人生においても将棋においても、物事に取り組む粘り腰は極めて重要なのです。

「おまえは囲碁みたいな将棋やな。と言われることがしばしばあった。奨励会3級というのは自分の将棋が固まる時期である。ぼくは駒を取ったら自陣に打って「厚み」を作る将棋が得意だった。(略)関西には今も「今泉理論」なるものが語り継がれている。ぼくが「金銀7枚持てば必勝、6枚なら優勢」と言い続けたことが始まりだ。

加えて、やはり詰将棋は重要です。増田康宏六段の「詰将棋、意味ないです(今は前言撤回)」という言葉が有名になりましたが、正確には「昔はたくさん解いてましたけど、今から考えてみるとあんまり意味なかった気がしますね。(手数が)一桁台の詰将棋は解けた方がいいとは思うんですけど、それ以上の手数とか難しい詰将棋とかは実戦では役に立たないと思います。奨励会員クラスになれば一桁台は解けるんで、意味ないなっていうのはあります。」とインタビューで補足しています。したがって、私たちアマチュアにとってはめちゃくちゃ重要です。今泉健司四段も以下のように述べており、1・3・5・7手詰のハンドブックの高速回転をいまでも継続しているようです(!)私も3手詰めハンドブックがんばります…

ぼくの勉強は詰将棋と実戦が主だった。意外かもしれないが、詰将棋は1手、3手、5手、7手など短いものをよく解いていた。反射神経を鍛える訓練だった。将棋ファンの方のために言えば、浦野真彦八段の「詰将棋ハンドブックシリーズ」が実によい練習になり、毎日800問を繰り返し解いた。これはいまも続けている。

人生訓:「反省と次に生かすこと」+「挨拶は大事」

本書を貫くテーマはメンタルコントロール。激情型なのか、熱いオーラを燃やす著者は、連勝と連敗どちらも多く、かなりムラッ気があります。喜怒哀楽は人しての魅力につながる一方で、勝負師としては中々感情との付き合い方は難しいところです。介護の仕事など人生経験を積み、「負けるのは弱いから仕方ない、勝つのは運が良かったから」と考えるようになりました。プロ棋士になった今泉四段はこう振り返ります。

ぼくがもっとも真摯さを嗅いていたのは、負けたあとの自分との向き合い方だった。勝って当然、負ければ心外。それですませてしまっていた。敗因をしっかり分析し、反省してそれを次に生かすということがまるでできていなかった。」故・野村克也氏の「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」に通じるものがありますね。

挨拶は大事。昔、課長に「挨拶ができればどこでも生きていけるよ」と言われたことがあるのですが、ネガティブに受け止めて「おちょくってんのか?」と内心思いつつ、対応に困って気のない返事をしてまった事があり、猛省しております。実際に、著者・今泉四段は、小林門下の兄弟子・加藤昌彦さんに「挨拶だけはちゃんとしろ」と言われ実践してきた結果、仕事を得ています。1度目の奨励会退会後の啓文社のアルバイトの職、その後のパスタ専門のレストランチェーンの接客でも活かされたことでしょう。2度目の奨励会退会後、介護ヘルパーの職でも挨拶は採用の決め手でした(ただし、ここがどういう施設か、わかってますか?とたしなめられてしまったとか)。やはり、挨拶は大事です!

読み物として―地獄の三段リーグの生き証人が語る

「そこは首に縄をかけられたまま将棋を指すような場所だ」とは野月浩貴七段の言。年間4人しか将棋のプロは誕生しないのです。青春を将棋に捧げた少年・青年がリーグ戦で徹底的に星を潰し合う―修羅の如き世界。当然、将棋界の同時代史として、読み物として面白い。1次情報なので生々しい。著者も、将棋界のピューリッツァー賞と名高い一幕の当事者でもありました。中座真七段の有名なエピソードです。1995年・第18回三段リーグ。年齢制限を迎えていた中座真三段は、今期でプロになれなければ諦める決意で当期リーグに臨んでいた。しかし迎えた最終局、今泉健司三段に敗れて自力昇段を逃してしまう。野月浩貴、藤内忍、木村一基、ライバル3人全てが負けなければ昇段できない。絶望で朦朧としながら帰ろうとした中座三段に、「中座さん、おめでとうございます」と声がかかった。ライバル3人が全て敗れたこと、それに伴い中座が2位となったことを伝えたのは、一度は中座を絶望に叩き落とした今泉だった。あまりの奇跡に理解が追いつかず、廊下に崩れ落ちる中座の写真は語り草となっている。ニコニコ大百科より)。こんなドラマめいたことが起きるなんて、事実は小説よりも奇なり、です。この出来事がなければ、「横歩取り8五飛戦法」は果たして生まれていたのでしょうか…?

そういうわけで、「観る将」にとっても、本書は実に読み応えがあります。羽生世代よりやや下というのが、今泉健司四段(1973年生まれ)の世代。作中には、現在40台の棋士たちが出てくることが多いです。矢倉規広、久保利明、立石径(医者に転じる、立石流四間飛車の方とは別の人)が関西の小学生3羽ガラスたちが、先行して三段リーグを巣立っていく著者の焦燥。プロにはなれなかったが将棋ファンの知らない奨励会の猛者たちに加え、プロ棋士は安用寺孝功、小林裕士、野月浩貴、行方尚史、木村一基、勝又清和、片上大輔など多数出てきます。昇段を争うライバルでもあり、あるときは遊び仲間。20~30代では、小学生の山崎隆之に1勝5敗で夕食代を巻き上げられたり、小学生の糸谷哲郎に貫禄負け(?)などのエピソードもユーモアを交えておおらかに綴られています(他には、豊島竜王・名人と普段はとよピーと呼んでいるなど)。悲喜こもごもの話が自他共にかかれていますが、著者の最後の三段リーグで、奮起の連勝を止めたのは遊び仲間の安用寺。しかも、級位者の頃から鍛えてきた後輩である片上が引導を渡すという厳しい勝負の世界。結果、1999年に26歳という年齢制限のため奨励会を三段で退会になってしまいます。著者は自戒を込めて、とにかく「あ・ま・い」と振り返りますが、素人目にはとんでもない勝負の世界で戦えただけで凄いことのように思えます。

介護ヘルパーと心境の変化、ついにプロへ

奨励会退会後は、アルバイト生活と将棋道場の講師をしつつ、「将棋倶楽部24」でネット将棋に明け暮れます。さらにレストランチェーンで働きながらアマ棋戦でも活躍。アマ竜王獲得などを経て、2007年に33歳で散弾リーグ編入試験に6勝1敗で合格、なんと2度目の奨励会へ復帰します。「2手目△3二飛戦法」で、奨励会員でありながら升田幸三賞を受賞する栄誉も。しかし、研究すれば勝てる棋士向けの(?)パチスロにハマってしまい、ネット将棋で腕を磨く時間がパチスロの時間に化けてしまった。「恥の上塗りになるけれど、情けないことにパチスロでは将棋より、勝つ快感も味わえた」と述懐しています。11勝7敗の次は5勝13敗と、15年前の3段リーグデビュー時と皮肉にも同じ星取りで、2009年に2度目の奨励会退会。3ヶ月の証券会社勤務を経て、実家の福山で介護施設のヘルパーの資格を得ます。ところが、やはり厳しい介護現場。認知症のGさんには右ストレートを毎度くらわされ、来客が絶えず普段は温厚なHさんはトイレ誘導の時だけはシベリア抑留を思い出し奇声を上げて抵抗するなど、まさに戦場。しかし、この戦場で著者は気づきを得ます。

「殴られるのは僕が立っている位置が悪かったと思えばいい。要はそれを苦痛と思うかどうかなのだ。人間、考えていることは顔に出る。悪い感情を持てば、それは必ず自分にはねかえってきてしまう。自分の感情をコントロールするすべを、ぼくは介護の現場で学んでいった。(略)介護の仕事を通じて、人の死は突然やってくることをいやというほど思い知らされた。自分も日々を悔いのないように生きなければと痛感した。人間には、二つの平等があるという。ひとつは時間、もうひとつは明日の保証がないことだ。いま生きているこの瞬間を、そして人との出会いを大事にしよう。与えられた時間をできる限り笑って過ごしたい。笑顔こそが自分を支える―そんな思いが強くなっていった。」

「プロに一発入れてやろう」から「公式戦でプロに教えてもらえるだけで嬉しい」に気持ちが変わったのです。「中飛車左穴熊」戦法の研究にも力を入れ、介護で鍛えた精神力と中飛車で快進撃。勝負どころで課題となっていた自分の甘さ、楽観・予断の類に打ち勝っていきます。アマタイトルを次々に制覇、プロとの公式戦でなんと10勝をマーク。2014年にプロ編入をかけた5番勝負に臨み、見事3勝1敗でプロ四段に。奨励会入会から苦節27年、41歳のオールドルーキーの誕生です。将棋界には優れた棋書・一般書が数多ありますが、何か将棋関連でオススメの1冊をと言われたら迷わず本書「介護士からプロ棋士へ 大器じゃないけど、晩成しました 」をオススメします。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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