邦題は「探究心」ですが、原題は「Life and Labour」ということで「人生と仕事」という素朴なタイトルです。仕事、人間の才能、健康、余暇、家庭生活、老年の生き方など、生活と人生についてのチェックポイントについて、実例を示しながらどう生きるべきか指針を示してくれます。中庸と快活さ、思いやりといった人間の美徳の価値を再確認させてくれる一冊と言えるでしょう。
『実際に、価値あるものにはすべて、労苦という代償が支払われている。働かなくては何も成し遂げることはできない。頂点に立つような立派な人こそ、たゆまぬ努力と不屈の忍耐によって名を成したのである。生まれながらの才能を持ち、若くして認められた人であっても、労力というペナルティーは免れない。』
いつものスマイルズ節ですが、どんな人であっても労力という代償を払っているのだということを思い起こすだけでも、気が楽になるでしょう。何の労苦もなしに手に入るものなどないのです。
『快活さは人が持つ最も素晴らしい資質の一つである。快活な人は、他人のことをあれこれ詮索することもないし、やたらと人を非難することもない。人の欠点をほじくり返したり、あらさがしをすることもなく、いつも楽しい話題に会話が弾む。彼らは思いやりのある言葉を惜しみなく撒き散らし、やさしい感情をはぐくみ、社会のあらゆるつきあいをさわやかなものにしてくれる。快活さは、心の美しさの裏返しであり、容姿の美しさと同様、その持ち主、望むものすべてをもたらしてくれる。それだけではない。心の美しさは容姿の美しさとは違って、衰えるということがない。』
快活であることは、それだけで様々な効果をもたらすのは、スマイルズが列挙しているとおりです。目指すべき美徳の代表格と言えるでしょう。そのためには、気持ちをコントロールする意志と技術が必要になります。その源流にあるのが克己心です。
『他人を思いやるためには克己心が必要である。古代ローマ人は、男らしさ、勇気、それに美徳も含めて、virtus(ヴィルトゥス)という言葉を使っていた。自分に打ち勝たない限り、virtus(ヴィルトゥス)はありえない。そのためには、努めてわがままな欲望を抑え、動物的な本能を締め出すよう、心がけるべきである。』「温厚な資質に恵まれ、それが外ににじみ出る者。忍耐強く自分に打ち勝とうと努める者、周囲の人々に礼儀正しく接する者、悩み苦しむ者たちを心から思いやれる人、自分がしてほしいことを他人にもしてやれる人、そんな人こそ、社会的地位と関係なく、真の男と呼ぶにふさわしい人だ。」
virtus(ヴィルトゥス)は英語のvirtue(美徳)の語源で、男らしさ、勇気、美徳といった人間の総合的な力量を示す言葉です。スマイルズの具体的な説明が実に分かりやすいですね。
『親切な言葉以外は口にしないこと。そうすれば、あなたのもとには親切さが跳ね返ってくるだろう。』
積極的に何かをやろうとするのは大変ですが、たしかにこれだけなら誰にでも出来るでしょう。しかし、意外と実践している人は少ないようにも見えます。簡単なようでいて、大切なことはこの他にもけっこう多いのではないでしょうか。
『社会への借りを返し、他人の世話にならずに暮らしていくこと。自由闊達に話すとともに、人を傷つけるようなことは決して言わないこと。常に自分を振り返り、知らないことは、知らないと正直に言うこと。自分が間違っているとわかれば、素直にそれを認めること。自分の欠点に気をつけば、せいいっぱい改めようと努めること。正しい勇気とはこういった全てのことをなし得ることである。たとえ、はじめはどんなに難しく感じられようともである。」
勇気の中身をこれまた具体的に言っています。勇気というと大げさに聞こえますが、私たちが日常の生活や仕事で示す勇気は、戦場での勇気よりも小さなものでいいのです。正直さや誠実さが勇気の源です。
『よく、人が成功するかどうかは、生まれながらの才能というよりはむしろ、途中で投げ出さず、最後までやり抜く努力によって決まる、と言われている。とはいえ、そこには新しいものを生み出そうとする、知性のひらめきを欠くことはできない。ただ、努力だけではどうにもならない。従って、世に天才と呼ばれる人たちは勤勉であり、努力家であるばかりか、おおむね情熱家でもあるわけだ。情熱のないところに、発見や発明はありえない。』
将棋の羽生善治九段が似た趣旨の事を言っています。「何かに挑戦したら確実に報われるのであれば、誰でも必ず挑戦するであろう。報われないかもしれないところで、同じ情熱、気力、モチベーションを継続しているのは非常に大変なことであり、私はそれを才能だと思っている。」心の中で情熱を燃やし続け、ひたむきに何かに取り組む姿勢は何ものにも代えがたい特質と言えるでしょう。
以上で、「探究心」から代表的な人間の美徳について重要な箇所をおさらいしてみました。あなたの人格を高めるチェックリスト代わりに使えるのではないでしょうか。とはいえ、全部を実践しようとするとなかなか大変です。でも、一つ一つに気を配れば実践可能なことばかりだったと思います。そうした努力をしようと意識しているのとしてないのでは、大きな差が出てくると思います。「自助論」、「向上心」と併せて「探究心」も子々孫々まで受け継ぎたい名著ですね。
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