マスト・バイのやさしい経営戦略論:「ストーリーとしての競争戦略」 楠木建、東洋経済新報社

  • URLをコピーしました!

「人を見て法を説け」という言葉がありますが、「ストーリーとしての競争戦略(楠木建)」はまさにそのような本です。つまり、”おカタイ”経営戦略論の教科書とは一線を画した入門書で、とっつきやすいためオススメです。以下の目的思考と論点明快な目次解説を見れば、本格経営書なのに20万部突破と異例のベストセラーとなったのも頷けます。

目次

本書のストーリーとしての目次

第1章…ストーリーの戦略論とは何であり、何ではないかをお話しし、ストーリーとしての競争戦略という視点を明らかにします。
第2章…本題に入る準備として、競争戦略というものの考え方が立脚している基本論理について、その本質部分をおさらいします。
第3章…「筋の良い」ストーリーとは何か、優れた戦略ストーリーの条件についてお話しします。
第4章…ストーリーとしての競争戦略のカギとなる二つの論点、具体的には戦略ストーリーの基点となる「コンセプト」と、ストーリーのキラーパスともいえる「クリティカル・コア」について話を深めたいと思います。
第5章…ストーリーという戦略思考の最大の強みである持続的な競争優位の論理を明らかにします。
第6章…ガリバーインターナショナルを例にとって、優れた戦略ストーリーの読解をしたいと思います。同社が構想し、現実に動かし、成功をもたらしたストーリーをじっくり読み取り、優れたストーリーの条件についての理解を深めることがこの章の目的です。
第7章…それまでの議論のまとめとして、優れた戦略ストーリーを描くための「骨法」のようなものをお話ししたいと思います。

戦略の本質「違い」と「つながり」のうち「つながり」に軸足を置く

ストーリーとしての競争戦略とは、戦略の本質である「違い」と「つながり」の2つの要素のうち、後者に軸足を置くものです。

競争戦略の第一の本質は、「他社との違いをつくること」です。「違いをつくる」ためには、他社と違うところに自社を位置付けること(SP=Strategic Positioningと、他社が簡単に真似できないその組織固有のやり方を実践すること(OC=Organizational Capability)、の2通りが存在します。SPは「他社と違うところに自社を位置付けること」、OCは「競争に勝つための独自の強みを持つこと」を指します。戦略の本質とは「違いをつくって、つなげる」ことです。他社との違いによって「完全競争」を免れ、余剰利潤を生みだすことが出来ます。

しかしながら、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略にはなりません。個別の違いがつながり、組み合わさり、相互に作用することによって長期利益が実現されるのです。ストーリーとしての競争戦略とは、一言で言えば、個別の要素の間にどのような因果関係や相互作用があるかを重視する考え方です。

「つながり」とは、戦略ストーリーにおける5つの柱(5C:競争優位、コンセプト、構成要素、クリティカル・コア、一貫性)が優れていて、動画のように全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくるようなものです。ビジネスモデルが構成要素の空間的な配置形態に焦点を当てているのに対して、ストーリーは打ち手の時間的展開に注目しています。したがって、戦略ストーリーの絵は、「こうすると、こうなる。そうなれば、これが可能になる……」という時間展開を含んだ因果論理になるのです。

本書のキーコンセプト「戦略ストーリーの5C」とは?

「戦略ストーリーの5C」は本書のキーコンセプトにあたります。以下、かいつまんでまとめると、

①競争優位(Competitive Advantage) ストーリーの「結」=利益創出の最終的な論理

②コンセプト(Concept) ストーリーの「起」=本質的な顧客価値の定義

③構成要素(Components) ストーリーの「承」=競合他社との「違い」(SP(戦略的ポジショニング)もしくはOC(組織能力))

④クリティカル・コア(Critical Core) ストーリーの「転」=独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素

⑤一貫性(Consistency) ストーリーの評価基準=構成要素をつなぐ因果論理

利益の定義は利益(P)=顧客が払いたいと思う水準(WTP)-コスト(C)として求めることが出来ます。そうすると、利益創出の最終的なロジックは概ね3つに絞られます。すなわち、以下の3つです。①競合よりも顧客が価値を認める製品やサービスを提供する、②あるいは競合よりも低いコストで提供する、③競争の土俵を特定のセグメントや領域に狭く絞り、その範囲に限定して事業を行うことで事実上競争がないような状態をつくる、です。まさにこれが競争戦略の本質です。

もちろん、世の中の優れた企業は淘汰の結果、競争に勝ち残っており、一見すると付け入る隙がないように見えます。しかし、実は各構成要素のなかに部分的には非合理的なものでも、全体で見れば合理的なもの(これを「賢者の盲点」という)があり、これこそが持続可能な競争優位の源泉を生み出していると著者は指摘します。そうしたポイントの発見、与件である競争環境の変化を背景に、打ち手をストーリーとして構想・実行した企業が新たな勝者となるのです。

楠木建氏といえば、「すべては好き嫌いから始まる」、「好き嫌いと才能」、「好き嫌いと経営 」というユニークな著作もありますが、経営学者が「好き嫌い」という情理を扱っているのは面白い着眼点です。「好きこそものの上手なれ」ということわざや、ドラッカーの言うような「自らの強みに集中せよ」という言葉が思い出されるところです。著名声優の國府田マリ子氏はインタビューで『何か一つのことを「好きだ」と思うパワーって何よりもすごい。そして、きっと誰にでもあるパワー。キミにも、私にも。いつもどんなときも、「大好き」というパワーが何よりも強いエネルギーになっています。』と心強いメッセージを発していますが、好悪という感情をどう競争戦略に落とし込んでマネジメントし、エネルギーに変えていくかは、人生においても、企業の人生=ビジネスにおいても重要です。また、役者の世界について「代わりのきかない仕事をしたい(競争戦略!)」「正解もない、点数も出ない」と述べており、ビジネスの世界にもどことなく通じるものがあるのは面白いところですね。楠木建氏といえば、先日レビューした「外資系コンサルの知的生産術」の山口 周氏と共著で、『「仕事ができる」とはどういうことか?』という本もお書きになっています。達意の経営書として、どれか1冊だけでも読んでおくと得るところがあります。

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

あなたの家族や友達にも教えてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

目次