オスマン帝国は歴史上屈指の大帝国であり、実に多様な地域、民族、宗教、言語を内包する文化圏でした。下の画像を見ると。ローマ帝国に比肩する領土と持続性を持った帝国であることがおわかりいただけるでしょう。(中核部分と最大領土を考えると、昨日紹介した「生き残った帝国ビザンティン」と併せて読むと効果2倍です!)
さて、
トルコというと、親日国でありながら、意外と日本人には知られていないのではないでしょうか。いったい、ヨーロッパなのか、中東・アジアなのか判然としないかもしれないが、まさしく、ヨーロッパとアジアにまたがって存在している地域なのです。そのような文明の交差路には、様々なバックグラウンドを持った人々が活躍しました。オスマン=トルコ帝国とも称されるように、トルコ人が支配階級で、征服された民が抑圧されていたのかというと、そのイメージは相当に異なることが、本書を読めばわかるでしょう。少なくとも、同時代の西欧諸国よりは相対的に寛容な支配がなされていたと言えます。たとえば、ユダヤ人に対する扱いを考えれば雲泥の差ですし、イスラム教徒とキリスト教徒が混在して長く共生していた歴史的事実は興味深いですね。ハレムの女性たち、後に総督や大宰相になる小姓、精鋭常備軍であるイェニチェリなど、卑賤の出自の人物、異教徒、異民族との混淆が必然になる仕組みさえあった点はもっと注目されるべきでしょう。
民族主義が勃興した近代から現代にかけて、バルカン半島では様々な民族集団が血みどろの争いを繰り広げてきました。中東地域でも紛争は現在進行形で起こっています。しかし、そのような地域を数百年治めてきたのがオスマン帝国です。人間社会の多元性と多様な要素を緩やかに統合していたオスマン帝国の支配のメカニズムを知ることは、分断の時代である現代に生きる我々に多様な示唆を与えてくれるでしょう。アナトリアの戦士集団が征服により帝国へと拡大するに連れて、内政、財政、司法、軍事、宗教について組織化されていく様子も簡潔に要点を押さえて述べられているので、ぜひ本書から入門して、興味の幅を広げていきましょう。
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