ローマ帝国の滅亡は1453年?ビザンツの魅力とハンディな概説書!:「生き残った帝国ビザンティン」井上浩一、講談社学術文庫

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5/29といえば、ローマ帝国(ビザンティン帝国、ビザンツ帝国、東ローマ帝国)の滅亡の日です。395年(割くことになるローマ帝国)に分裂して、476年(死なん驚き)西ローマ帝国滅亡って習ったよとご記憶の方も多いでしょう。では東の方は?実を言うと、東は1000年以上にわたる生存闘争の果てに、1453年まで続いたのです。しかし、西欧中心史観からは、このヨーロッパとアジアにまたがる1000年帝国に関する教科書の記述の比重はあまり大きくはありません(あまりにも戦い続けで資料が少なく、研究に多言語の習得を要するなどの理由もあるでしょうが)。「生き残った帝国ビザンティン」は、この分野の第一人者として定評のある井上浩一氏によるコンパクトな概説書(元は講談社現代新書)。歴史に馴染みがない方にもわかりやすい平易な記述で読みやすい点がウリです。以下ではビザンツの魅力をおおざっくりに書いていきます。

目次

千年帝国の歴史を彩る知られざる皇帝達

総勢90人位の皇帝の半数は暗殺・失脚で、権力の流動性が高かったのもユニークな特色です。一見すると不安定とも言えますが、危機に際して有能な将軍などが皇帝として、高校世界史に出てくる皇帝と言えば、ユスティニアヌス1世、ヘラクレイオス1世、レオン3世、アレクシオス1世……後は、難関私大でバシレイオス2世くらいでしょうか(皇帝以外だとベリサリウス将軍くらい……?)美人コンテストで皇妃を決めていた時期もあったり、他にも個性的な皇帝たち……我が子の目をえぐり帝位に君臨する女帝エイレーネー、鼻をそがれ追放されながらも地下水道から首都に侵入し帝位に返り咲いたユスティニアノス2世など、たくさんの人物がいるのですけどね(きりがないのでこれくらいに。ちなみに、くじ引きで決まった一夜皇帝なんてのもいます)。「生き残った帝国ビザンティン」はメリハリある記述で、多様な皇帝達の奮闘を描きます。

ウェブで拾った領土変遷

滅亡の瀬戸際から何度も蘇る帝国

東西南北のあらゆる方面からの攻勢、反乱や内部闘争など滅亡の瀬戸際まで追い込まれても復活を遂げるのが、非常に大きな魅力の一つでもあります。たとえば1204年の第四回十字軍で滅んだはずなのに、しれっと蘇っているのが腑に落ちなくて、山川出版社の「詳説世界史研究」で調べることにしたのが、私がビザンツに興味を持つきっかけでした(ちなみに大学の卒論はビザンツでした)。すると、小アジア西部のニカイア帝国、小アジア北東部のトレビゾンド帝国、バルカン半島南西部のエピロス専制侯国などずいぶんと怪しげな名前の亡命政権ができており、そのうちニカイア帝国が首都コンスタンティノープルを奪回してビザンツ帝国は一応の復活を遂げたという一幕があったのです。立役者のミカエル8世はかなりの策謀家で、「シチリアの晩鐘」にも一役かっている人物です。これは一例に過ぎません。異様な粘り腰で何度も滅亡の縁から蘇る。ビザンツの大きな魅力の一つです。

老獪で巧みな外交術・多様な勢力との対峙と共生

文明の十字路に位置するビザンツ文明は、様々な国や民族と関わり合いになりました。バルカン半島は様々な遊牧民族、小アジア方面はイスラーム勢力やトルコ人など、海ではノルマン人やイスラーム勢力と対峙し、ある時は戦火を交え、ある時は手を結び、生存闘争を繰り広げたのです。○○人、××族をざっとふり返るだけでも、マジャール、アヴァール、ブルガール、ペチェネグ、ゲピート、クマン、ハザール…など枚挙に暇がありません。帝国後期では、ジェノヴァやヴェネツィアとの関わりも政局や軍事動向の面で重要でした。東西南北の多様なプレイヤーたちを時に謀略や貢納で惑わしたり、味方につけたり、時に正面から激突したり、帝国がありとあらゆる手段で戦い抜いた点は、非常に波乱万丈です。「生き残った帝国ビザンティン」は巧みに濃淡をつけた記述で、奮闘の歴史を過不足なく鮮明に描き出しています。

軍事・防衛関連でも注目度満載

教科書でおなじみの「テマ」「プロノイア」など帝国の様々な制度の謎、重装騎兵「カタフラクト」、軍馬全体にも装甲を施した超重装騎兵「クリバナリウス、外国人親衛隊「ヴァリャーグ」、敗残兵を再編成した「不死部隊」といったといった軍団なども、軍事関連では注目したいところです。中でも、水上でも燃焼を続ける秘密兵器「ギリシアの火」はロマンがあって面白いですね。このある種の火炎放射兵器は、ある皇帝が著書にその製法を厳重に秘匿するよう言明する記述を残しており、帝国の滅亡とともにその製法は失われてしまいました。一説には松脂、ナフサ、酸化カルシウム、硫黄または硝石の混合物で作られたとされていますが、実際のところは定かではありません。海上戦で主に用いられ、サイフォンで船から放射され、水をかけるとますます燃え盛るという説もあるのだから困りものです。このように、軍事・防衛関連の観点でも見るべき観点は多いです。

『スキュリツェス年代記』に描かれた「ギリシアの火」

文化・経済、ローマ帝国という建前と現実

文化、経済の面でも注目すべき点は多いです。教育水準の高さを背景にした官僚制度、きらびやかなキリスト教芸術、古代からのギリシア・ローマ文明の継承と伝達、中世のドル・ノミスマ金貨、産業スパイ(?)による蚕の奪取と絹織物生産など、エピソードも含めてネタが豊富です。ローマ帝国という理念にこだわり続けた部分も非常に興味深いです。詳しくはあえて今日のところは語りませんでしたが、「生き残った帝国ビザンティン」は入門書のスタンダードとして、入り口にうってつけと言えるでしょう。「すべての道はローマに通ず」。ハンディサイズのエントランス、その先には歴史の無限の探求の道が広がっています。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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