なぜ?「紅蓮華( Lisa)」・「香水(瑛人)」ヒットの最大の理由とは?
「紅蓮華( Lisa)」・「香水(瑛人)」がヒットしたのはなぜか?私が考える最も大きな理由は、歌声・曲調・歌詞に、未来・今・過去の自分を投影できる良い楽曲だからだ。キャッチーで覚えやすい歌声・曲調・歌詞が耳に残り、他人事から自分事への変換が進んで、心に残るのである。
対照的な「紅蓮華」と「香水」の歌詞
先日、業務スーパーでレジ待ちをしていると、「紅蓮華」、「香水」が立て続けに流れて2曲のギャップに苦笑してしまった。あまりに好対照だったからだ。「紅蓮華」は悲しみから強くなれる理由を知り、過酷な現実に立ち向かう力強い曲、「香水」はドルチェアンドガッバーナのせいにしながら、現実と過去から立ち上がれずにやるせなく煩悶する曲だ。「誰かのために強くなれるなら ありがとう悲しみよ」と高潔な「紅蓮華」、「別に君を求めてないけど 横にいられると思い出す 君のドルチェアンドガッバーナのその香水のせいだよ」と未練たらたらの「香水」。「紅蓮華」の歌詞と、「香水」の歌詞は落差が随分と激しい(笑)
「紅蓮華」と「香水」が同時に流行るのはなぜか?
とはいえ、ヒットソングはある種の時代性を反映している。では、対照的な「紅蓮華」と「香水」が同時に流行るのはなぜだろうか。その理由は、私たちはアニメの世界のように困難にたくましく挑む前向きな姿勢にも、現実の苦しさのなかでもがき苦しむどうしようもなさにも、どちらにも共感できるからだ。コロナ禍が加わり、過酷で辛い現実の状況がある。そのなかで、変われない自分と変わりたい自分の両方について、「紅蓮華」と「香水」の歌詞を聞きながら、私たちは反芻するのである。
「紅蓮華」の必然的なヒットの要因とは?
以上が、本質的で最も大きいと考えるヒットの理由である。続いて、経緯を踏まえてもう少し一般的な理由を考察してみよう。ヒットを飛ばした理由は、「紅蓮華( Lisa)」は必然、「香水(瑛人)」は偶然である。これは曲の優劣の問題ではなく、曲の経由チャネルの問題である。
「紅蓮華( Lisa)」は、大ヒットアニメ「鬼滅の刃」のOP主題歌である。集英社「ジャンプ」の連載漫画が、ソニー傘下のアニプレックスの指揮のもとアニメ化され、クオリティの高さから高評価を得た。アニメ化前は数百万部に過ぎなかった発行部数は、既刊22巻・1億部以上を突破するまでに至った。作品のテーマや世界観に合った主題歌が素晴らしければ、ヒットは当然で分析するまでもない。だが、幸福なタイアップは非常に価値あることなのだ。
Lisaは「Fate/Zero」や「ソードアート・オンライン」などを中心にソニー/アニプレックスが手掛ける人気アニメのシリーズの主題歌を歌う人気アニソン歌手だ。したがって、タイアップは適切である。ドラマテックな曲調、美麗でかっこいい映像、作品の主題を象徴する歌詞、「るろうに剣心」OPにおけるJUDY AND MARYの「そばかす」のように、ゴキゲンなやたらと明るい歌声なのに、なぜか「映像は鎖鎌」なんて状況とは違うのだ(それぞれ、どちらも好きな曲と漫画・アニメなんだけどねf^^;)。
そもそも「鬼滅の刃」ヒット加速の要因とは?
「鬼滅の刃」のヒットは、折しもサブスクリプションの動画配信サービスの普及タイミングと重なったのも大きい(私も電子書籍・動画配信一体型のU-NEXTを利用している)。便利な時代になり、今や書店やTSUTAYAに足を運ばずとも、居ながらにしてたやすくデジタルに漫画やアニメにアクセスできるのである。アニメ放映や原作終了後もヒットが続いたのは、新型コロナウイルス流行により、在宅時間が増加したことも大きいだろう。拡大した読者・視聴者の基盤に、ブームから裾野の広い年齢の人々が駆けつければ、10/16封切りの劇場版「鬼滅の刃 無限列車編」が、平日および土日の動員数・興行収入の記録を塗り替えたのも頷ける話だ。
「香水」の偶然のヒットを可能した要因とは?
「ドルチェアンドガッバーナのその香水のせいだよ」と言いたいが、「香水」の偶然のヒットを可能にした要因は3つある。
第1に、瑛人氏の努力の成果が響いたからだ。神奈川県横浜市出身の23歳。ハンバーガー屋でアルバイトをしながら音楽活動を続け、インディペンデント・アーティスト初の国内チャート1位の偉業を成し遂げた。ヒットは偶然により生まれるが、偶然を生み出せるきっかけの根底にあるのは必然的に努力なのである。どうにもクズな曲中の主人公の歌詞を聴いてもあまり嫌な気分にならないのは、アコースティックギターの調べに乗せて、柔らかな歌声を響かせる瑛人氏の技量あってのことだ。
第2に、SNSによるバイラル・ループ的な拡散である。これは経緯、チャネルに類する話だ。TikTok発のヒットという意味では先行事例もある。2019年に19週連続全米シングルチャート1位という記録を作ったLil Nas Xの「Old Town Road」のバイラル・ヒットに加え、往年のシャネルズ/鈴木雅之の「め組のひと」が突如女子高生の間で流行ったりなんてことも起きている。プロモーションの後ろ盾なしに、偶然からヒットが生まれる素地・可能性がかつてよりも大きいのである。
第3に、話題を共有したくなる耳に残るフレーズや歌詞の歌い方である。『ドールチェアーンドガッバーナ~の♪』という固有名詞をあえて使い、特徴的な節回しで耳に残るよう仕立て上げた。「DOLCE&GABBANA」といえば、2016年に資生堂がグローバルライセンス契約を締結し、近年の躍進を牽引した8大旗艦ブランドの一角である。言葉で抽象的な説明をするよりも、ブランド名のほうが耳に残る。
私たちは「紅蓮華」と「香水」から何を学ぶか
歌で耳を楽しませた後は、私たちは「紅蓮華」と「香水」から何を学ぶかという点も(強引だが)考えてみよう。強くなれる理由を知ったのは、ドルチェアンドガッバーナの香水のせいだとしてもいいのだ。これはどういうことか?つまり、過去と現在の情けない自分を一旦は認めて、未来に向かって前向きに歩き出す切り替えが重要である。
まず、「香水」歌詞中の主人公はしっかりと自己認識が出来ている点に着目したい。「人に嘘ついて軽蔑されて涙一つも出ない」という自分のクズな様子、「君をまた好きになるくらい素敵な人」で「でもまた同じことの繰り返しって僕が振られるんだ」という未来分析がしっかり出来ている。自分が自分をしっかり見ているのだ。
韜晦から離れて心をあけすけにさらけ出し、ドルガバの香水のフレーバーが漂うなか未練に浸る。だめな自分と心の有り様を一度認めて、ある意味で自己受容が出来ている。いたずらに強がらないだけ、むしろ良いのかもしれない。こんな情けない、やるせない気分を醸し出す歌に対して、いたたまれない気分になりながらも、そういう時ってあるよなと、哀れみや共感を覚える人は意外に多いのではないだろうか。
「紅蓮華」の歌詞に移ると、悲しみにくれる辛い経験から、過酷な現実に立ち向かう。竈門炭治郎のように家族を惨殺されるようなレベルの経験はなくとも、打ちひしがれて、やるせない状況になることは誰にだってある。過去の辛い経験や現在の冴えない状態を踏まえて、未来と自分をどう変えたいかが重要である。過去と他人は変えられないからだ。
したがって、「世界に打ちのめされて負ける意味を知った」なら、「夜の匂い(ドルガバの香水)に空睨んでも、変われるのは自分だけ」と捉える必要がある。「簡単に片付けられた守れなかった夢も 紅蓮の心臓に根を生やし この血に宿っている」ようにできるかどうかが重要だ。強くなれる理由を知る前に、ドルチェアンドガッバーナの香水のせいにしたっていいじゃないか。過去と現在の情けない自分を一旦は認めて、未来に向かって前向きに歩き出す切り替えが重要である。幸いなことに、「紅蓮華」、「香水」の両方ともAmazon Music Unlimitedに入っているので、どうか交互に聴いてもらいたい(20/1/11まで新規登録で3ヶ月無料、unlimitedは6500万曲以上が聴き放題、4ヶ月目以降980円/月、プライム会員は780円/月)。