漫然と生きる人生から脱出するための考え方と生き方のポイント:「調べる技術 書く技術―誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意」 佐藤優、SB新書

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作家としての佐藤優は何者か?その答えの一つは、仕事の量の鬼です。まえがきでこのように書いています。
「私は、毎月平均2冊のペースで本を出し、抱えるコラムや連載などの締め切りの数はひと月あたり約 90 になる。ひと月に書く原稿の分量は、平均して1200ページ、字数にして約 50万字にもなる。この膨大な創作活動は、膨大なインプットに支えられている。執筆のために、多い月では500冊以上の本に目を通す。」

調べる技術 書く技術 誰でも本物の教養が身につく知的アウトプットの極意 」では、単なるハウツーというよりも、生き方・考え方といった姿勢の部分を強調しています。佐藤優の本を読み慣れている人には物足りない面もありますが、情報過多で悩み多きこの時代に、ふと立ち止まって、人生を良い方向に変えていくために読んでほしいなと思える本です。
とりわけ、今やAIが人間の仕事の一部を奪っていくことが危惧される時代です。たとえば、分析力の部分はどんどんAIが担うようになっていくでしょう。そうすると、人間は、人間的な価値判断や感覚、発想力、創造力、想像力を動員し、付加価値をつける総合力がなくては、豊かに幸せに生きていけない時代になっていきます。
ただし、合理的な思考の部分はAIに軍配が上がるとしても、人間は非合理な存在であり、こうした人間の非合理的な一面は、人間にしか対処できません。そこで、改めて必要なのが「教養力」です。「教養力」とは、想定外の出来事に直面した際、そのつど自分の頭で考え、適切に対処する力です。どのように判断し、行動するかが問われる場面では、「想像力」「洞察力」「判断力」「分析力」、その人が丸ごと試されます。この「教養力」は、インプットとアウトプットを合わせて行うことで磨かれていくと語ります。
インプットには、大きく分けて2種類あります。1つは、理解力の土台を作るためのインプット。具体的には基礎知識・教養とは、高校の教科書レベルの知識・教養と、自分の仕事に関する知識などです。もう1つは、具体的なアウトプットのために行うインプットです。つまり、目的意識をもって行うインプットのことで、たとえば仕事や人生に関わる問題や悩みを解決するために行うインプットです。
この2種類のインプットを踏まえて、「自分の頭で考える」アウトプットの工程が重要です。ところで、わかりやすいSNSの投稿・ネットニュースやテレビのワイドショーを見て、漫然とわかった気になっていませんか?考えてそれを本当に理解しましたか?と言われると、本当に考えて自分は判断し、意見を構築しているのだろうかと不安になりますよね。ソクラテスからカール・ポパーに至るまで、知性とは自らを疑うことでもあるのです。
したがって、インプットからアウトプットに移るうえで必要なのは、「批判的思考力」をもって物事を見ることです。 批判とは一般に使われるように、何でも反対することではありません。批判的思考力とは、対象を理解し、自分の評価を加える能力を指します。新聞を読む、本を読む。そこに書かれていることを理解し、「賛成」「反対」「この点は違うと思う」など、自分の評価をを加えることです。
佐藤優氏は、あえてアナログな手法を推奨します。すなわち、読書ノートをつけることです。本の抜き書きだけではなく、「わかった」「わからない」といった判断や、「賛成」「反対」「ここがおかしい」といった意見も書き記します この場数を踏むことで、批判的思考力も自然と鍛えられるのです。
このようなインプット・アウトプットの技法などの記述が参考になる一方で、人生に対する考え方についても、随所で面白い意見が見られます。たとえば、「習慣や惰性によって漫然と消費するのではなく、自分で考えて定めたスタイルにしたがって消費すること」という筆者の意見には賛同できます。漫然と生きていると、慣れた方法や習慣に依存してしまい、自分で考え、判断し、選び取ることで人生に主体性が生まれ精神衛生上もよいのではないかと私は考えています。
さらに、「 社会人としてのコミュニケーション能力とは、利害が絡むなかで建設的な関係を築ける能力 といっていいだろう。そこで求められるのは、「歩留まり」と「リスクヘッジ」 の意識である」という筆者の冷静な提言も役に立つ。「歩留まり」の観点では、相手が自分の期待にフルに応えてくれると思っていると、それ以下だったときに窮地に陥るが、6割程度と見積もっておけば、7割の達成率でもラッキーと思えるわけです。また、残り3~4割を埋めるための策を、前もって考えておくこともできます。言い換えると、自分の中の期待値を下げてコントロールしておくことで、バッファを持っておくわけです。この考え方は対お客様や対上司の観点でも応用できるかと思います。
「リスクヘッジ」の観点では、「相手は誰からお金をもらっているのか」という視点をもつことが意外に重要です。
「相手は誰にお金をもらっているのか、自分は誰にお金をもらっているのかを、客観的に把握する のである。すると、たとえ対立することがあっても、それは相手と自分との人間的な衝突ではなく、あくまでも、相手の雇い主と自分の雇い主の利害の衝突として、冷静に対処できる。」 と佐藤優氏は述べます
当たり前のようでいて、意外とできていないポイントと言えるでしょう。相手と自分が誰の利益を代表しているのかを、つねに意識して付き合うことで、社会人として保つべき立ち位置を見失わずにすむというわけです。
このように、単なるハウツーにとどまらず、仕事やプライベートに役立つ考え方のアドバイスが盛り沢山な1冊となっています。佐藤優を読み慣れた人には重厚感が足りないかもしれませんが、漫然と今まで生きてきたかもな……これからの時代どうしよう……と漠然と思っている人には、サクッと読める新書なので、特に役立つお値打ちの1冊と言えるでしょう。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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