打ち間違い・タイプミス、誰にでもありますよね?「校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術」は、極めて実践的な良著です。「人は誰でも間違える」を大前提に、ミスが出たときの受け止め方、対処の仕方といった仕事への取り組み姿勢をはじめ、極力ミスをなくし、言葉のセンスを磨くためのコツを具体的に紹介しています。資料の修正の手間回避や恥ずかしい誤発信の抑止により、仕事の効率化にも繋がります。私も本業で「読み・書き・話す」を生業に、資料の執筆・編集・校正・校閲をしているので、本書はとても役立ちました。
本書の魅力は、誤字・脱字など間違い事例としてゲラ写真を100点以上掲載しており、読み進めるだけで自然にエクササイズになる点です。毎日新聞校閲グループの「間違いを見逃さないノウハウ・ドゥハウ」を、具体的な誤用例や誤植例を通じて会得できるほか、日本語表現を深奥に迫ることもできる点も魅力です。言葉と格闘する毎日新聞校閲グループならではの視点や、事例に関するエピソードなども盛りだくさん。新聞制作を支える「言葉の番人」ともいうべき校閲の職人技が堪能できる一冊と言えるでしょう。
まえがきは、校閲グループの誇りが伺える頼もしい序文です。「私たちは紙面を守るゴールキーパーとも言えます。誤りを見逃す-失点しても、自ら点を取りに行って挽回するようなことはできません。けれど、0点に抑えることはできる、負けない試合をすることはできるのです。これこそ校閲の存在意義です。日々さまざまなシュートが飛んできますし、阻止する方法も毎回違います。本書は、その実例をまとめたものです。」。具体的な方法は愚直ですが、基本動作の徹底が最も重要なのです。たとえば、
・「流れを読む」
・「読まずに、一字一句指で押さえて見る」
・「カタカナだけ見る」
・「数字だけ見る」
など手法を変えて、繰り返しチェックするのがとても大切です。
より具体的な、注意すべき点をいくつか挙げていきましょう。近年多く見受けられるのは、例を見ていきましょう。
・「さ入れ言葉(例:×使わ「さ」せていただきます)」
・「カと力(左がカタカナで右が漢字)」も見分けにくい。
・字のタイプミスにより、誤って混入するパターン
たとえば「y」の混入
(×武将集団、○武装集団、×マリアナ海峡、○マリアナ海溝)。
・場所が近いキー、たとえば「z」と「s」の打ち間違いも頻発(×国産牛肉を偽造、○国産牛肉を偽装)。
・文章に登場する膨大な数の人名では、多数派に流されがちな典型的な名字に注意しよう(例:渡邉や齋藤など)。
・慣用表現、同音異義語の用い方も間違いに繋がりやすいポイントの一つ。調べる習慣をつけて、使いこなしていきましょう。文章それ自体においても、副詞や助詞の使い方一つでニュアンスも代わってしまうので読み直しや推敲、最終チェックは必須です。事実関係や時系列のチェックも重要な点と言えるでしょう。。
以上で、プロの「校閲記者の目」のエッセンスの一端をご紹介してきました。業務効率化と言葉遣いの吟味の両方に効く隠れた名著です。文章を使って気軽に発しできる時代だからこそ、些細な点にも目を配っていきましょう。「神は細部に宿る」のですから。