ヒットに導くために、いかに「企み」、いかに「画策するか」:「おそ松さんの企画術 ヒットの秘密を解き明かす」布川郁司、集英社

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50年前も大ヒット漫画がなぜ再ブレークしたのかを中心に、「おそ松さん」ヒットの要因とアニメビジネスの最前線、さらには今後の在り方まで包括的に論じている1冊です。筆者は、スタジオぴえろの創業者布川郁司氏。『うる星やつら』『魔法の天使クリィミーマミ『NARUTO』『おそ松さん』などを手がけ、40年にわたって日本のアニメ産業を支えています。

本書のテーマは「企画術」です。企画とは、いいアイデアを生み出すことで完結するものではありません。たとえ、企画に弱点があったとしても、それをヒットに導くために、いかに「企み」、いかに「画策するか」が最も重要な要素なのです。ヒットを生み出す企画に必勝法はありません。しかし、ヒットを生み出した作品がいかにして企画されたのかをケーススタディとして考えることで重要な示唆を得られます。

女性を中心に劇的な人気を集めた本作のヒットの原点は、実は2012年の「しろくまカフェ」。本書の内容はむしろこの作品への言及が多い。「派手なアクションもないし、イケメンキャラもいない。激しい恋愛も、アイドルのような女性キャラもいません。シロクマくんやパンダくんのゆるかわいいキャラクターが、原作の最大の魅力なのです。これがもう、声に個性をつけるしかない。まず、ラインナップだけでも話題になるくらいの人気声優を揃えることにしました。(中略)人気声優の起用はきっかけに過ぎません。作品自体に魅力がなければ、最初は観てくれても視聴者はすぐに飽きてしまいます。」

最初の取っ掛かりとして、豪華な役者を揃えるのはありきたりな手段かもしれません。しかし、注目を集めなければ始まらないのです。加えて、アニメは総合芸術と言えますが、一流の声優陣であれば、キャラの魅力もその技量によっていっそう引き立つというものです。まったくの0からではなく、固定ファンがいるところに、渾身の作品を投入することがヒットの確率を高める手段です。

マーケティングとモノ作りにおけるペルソナ設定とターゲティングも重要です。布川氏は、「仕事に疲れたOLさんが帰ってきて、シャワーを浴びて、ビールを飲みながら観るアニメ。それを実現したら、もっと大きな反応が返ってくるのではないだろうか。」と想定していたと言います。こうした「しろくまカフェ」の成功を生んだ発想の延長線上から「おそ松さん」のヒットは生まれたのです。

「巨大な大衆と言うものは存在せず、さまざまな趣味嗜好を持った人たちの分散した集団があるばかりです。したがって、これからのクリエイターは、漠然とした大衆を狙っても、反応が得にくいでしょう。」と語る問題意識は、まさしくマーケティングの発想です。沼上幹教授(一橋大)の「経営戦略の思考法」の内容を想起させます。すなわち、(1)リアルな「こびと」を思い浮かべ(2)多様な「こびと」同士の関係を把握して構造を描き(3)「こびと」の変化をトレースし、(4)メカニズムを解明するというものです。何の見当もつけずにむやみに作るのではなく、見る人はどのような人かを考えながら作ることで、少しでも受けて

6つ子に個性をもたせたことについて、布川氏は次のような言葉を引き合いに出します。宮﨑駿に「風の谷のナウシカ」の連載を依頼しスタジオジブリ誕生のきっかけを作った尾形英夫アニメージュ初代編集長の言葉です。その言葉は、「ミュージシャンやアイドルのように、アニメのキャラクターにファンが生まれる時代が来る。」キャラクタービジネスの未来と可能性を予見していたのです。キャラの個性へのこだわりがヒットの決定的な要因の一つでした。

最後にアニメ業界の未来についてもコメントしています。「アニメにとって、テレビが唯一のインフラではなく、選択肢の一つになれば、ネットオリジナルのアニメを作って、そこに独自のスポンサーを集める。(中略)テレビもネットも、本質はあくまでインフラです。そして、ファンが付くのはインフラではなく、コンテンツです。」「世界中にアニメを配信できるのであれば、制作費を提供してくる企業も世界中から探してきたっていいはずです。それはスポンサーでもいいし、製作委員会への出資でもいい。」これはまさに今、ネットフリックスがドラマなどでやっていることです。ネットフリックスはアニメ業界にも食指を伸ばしており、「製作委員会方式」の運営方法や、それを軸とする商慣行、業界の労働環境や賃金水準に一石を投じるキープレイヤーになるかもしれません。本書自体は(当然ながら)やや製作側からの発想に傾斜しているのは致し方ないですが、要するに重要なのはビジネスとして成立する仕組み作りでしょう。製作側・出資者・視聴者が三方良しとならねば、アニメーション文化の持続的拡大は続かないのです。

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この記事を書いた人

・現役世代を元気にしたいとの思いで新ブログを立ち上げ!
・本は2000冊以上読破、エッセンスを還元いたします
・金融機関で営業・調査部隊双方を経験。
・バックグラウンドは歴史とMBA

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