学習塾の講師をバイトでしていた頃、入試問題や問題集の解説をしているとよく出題されていたので、読んでみました。文体は平易で、1テーマ4ページくらいなので読みやすい。四半世紀以上も前の本ですが、色あせない普遍な部分や、面白い知見が満載です。直接的なノウハウというよりは、習慣に関わる部分がどちらかというと多いように感じます。
「思考の整理学」では「思考」とはそもそも何か?を考える点が興味深いです。「思われる」と「考える」の違いなど、意外にわかりづらい点に焦点を当てた文章が特に面白い点が多い。
思考の整理は、主に以下のような方法を紹介。
・メタ化(抽象化)する。
・スクラップしたり、カード・ノートに書き留める。
・博覧強記
・適度の忘却
創造的な思考のためには、
・朝飯前に知的作業を行う。
・考えを寝かせる。(時間を置き、発酵させる)
・編纂・編集し、二次的な創造を行う。(エディターシップ、メタ・クリエイション、カクテル)
・周辺に関心、広く視野を持つ。(セレンディピティ、副次的発見)
などなど。
また、書斎だけでの思考ではなく、現実の行動(1次的現実)になぞらえての思考も大切だと説いていいます。
「知的創造のヒント」では、思考と論文をお酒造りにたとえて、心構えや習慣、メモや読み方、ちょっとした工夫、着想や雑談について論じています。
最も興味深く感じたところは「比喩」の項目です。
たとえば、
・死せる比喩表現をもとへ蘇生させてみる
ex)時の流れの「流れ」
・新しい事象の命名に比喩
・考えるに当たっての方法としての比喩
など、着想を得る方法に比喩が関わる場面は多いようです。
さらに、著者は「比喩」の本質について筆を進めます。
・遠いものを結び合わせて互いの中に潜在する類似に気づかせるのが想像力であるが、比喩は想像力の最も具体的な表出である。
・「思いつく」というのはどことなく通じるところをとらえて、一見別々のものを結びつけることだから、比喩の中に含めてよい。
ああ、なるほど!という感じですっきりした。思いつきや想像力、比喩ってそういうことか、と納得がいった。擬人法に擬物表現、直喩に隠喩と、あらゆる比喩表現を多量に駆使して長文を書く博覧強記の方がいるのだが、一体どこからそんな表現が出てくるのかと今まで不思議に思っていた。しかし、「どことなく通じるところをとらえて、一見別々のものを結びつける」のが「思いつき」のメカニズムだとわかり、合点がいった。
想像力が豊かなだけでなく、頭の回転も速い人に対して、自分の頭の回転がついていけないことがしばしばあっある。何でそんな話になるんだとか、論理が飛躍していると思っていたが、「遠いものを結び合わせて互いの中に潜在する類似に気づかせるのが想像力」ということを考えれば、自分はその類似に気がつけていなかったのだ。「AならばB」の考え方の積み重ねだけではなく、想像力や比喩による思い付きが、知的創造に結びつく。そんな考え方もできちゃう人間の脳って、面白い。
デジタルツールの発達によって、「思考の整理学」 「知的創造のヒント」に紹介されるような手法はアナログに見える点も多いでしょう。しかし、たとえばKindleとEvernoteを併用してオリジナルな読書メモをたやすく作ることもできるなど、本書の手法を応用してより便利なやり方を追求することもできます。地道な方法の中に現代にも応用できるヒントが潜んでいます。
本書の著者、外山滋比古の文章は中学入試問題や国語の問題集にも出題されやすいのもポイント。お子様の読書にもどうぞ。